凍った路面での安全で円滑な歩行のためには滑り抵抗の大きなソールが不可欠だが、滑り抵抗が大きくなりすぎるとつまずきやすくなり、特に、高齢者らの安全性を脅かすことになってしまう。ヒントになったのは、氷の上を歩いても滑らないホッキョクグマ(シロクマ)の足の裏だという。足の裏にたくさん生えている毛は、防寒だけでなく氷の上でのスリップ防止にも役立っている。ホッキョクグマの足の裏のように、繊維状のものをゴムに垂直に立たせることができないか? 開発は、床材の滑り性を評価する指標としてJIS規格にも採用されている滑り抵抗係数(C.S.R)など科学的な手法で、試作したさまざまなソール素材を評価しながら進められた。
◆寒冷地での課題克服
その結果、直径十数マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)という細いガラス繊維を路面と垂直方向にそろえてゴムに混ぜる技術が開発された。この技術は、その後の防滑ソール開発の根幹をなす技術として最新の商品にも応用されている。もっとも、この素材だけでは実用には不十分であることが、開発後すぐに明らかになった。暖かい九州にあるムーンスターでは、アイススケートリンクで実用性を評価していた。しかし、スケートリンクのようなぬれた氷の上では高い防滑性を示していた新開発のソールが、寒冷地の氷雪路面状では十分な効果を発揮できなかった。乾いた氷の上では氷や雪がソールに付着して、ガラス繊維が氷に刺さらなくなってしまうからだ。