佐々木淳さん【拡大】
数学を教える職業に就き10年ほどたちます。実は、この十数年の間に、小中高の数学のカリキュラムに大きな変化がありました。その大きな変化の一つに「二次方程式の解の公式」があります。元々は、中学3年生で学習する公式で、覚えるのも、使いこなすのも大変なため「この公式は、社会に出てから使ったことがない、だから無くすべきだ」などの声を受けて、中学3年生の教科書から姿を消していました。「使わないから必要ない」。本当にそうでしょうか?
私は近年における日本人の学びの判断が「使うか、使わないか」だけになっている気がしてなりません。たとえ結果として将来使わなかったとしても、必要なものはあるのではないかと思います。その例をこの「解の公式」を通してお伝えしてみたいと思います。現在の現場で、解の公式を中学3年生で学習してきていない生徒を見て感じたことがあります。それはルートの計算がスムーズにできない学生が増えたということです。以前の学生なら、例えば√12が2√3になることは、数学が苦手でもスムーズにできていましたが、それがスムーズにできないのです。ルートの計算は学習してきているのに、なぜスムーズにできないのだろうと悩んでいたときに、頭に浮かんだのは「解の公式」の存在でした。
「解の公式」は、ルートの計算を復習し、定着させるためのアウトプットの「機会」として必要だったのです。つまり以前の学生は、ルートの計算を「解の公式」という面倒な公式を、苦労して学習する過程の中で自然と身に付けていたわけです。「面倒で苦労するし、使わないから必要ない」のではなく、「面倒で苦労する中で身に付くものがあるから必要」なのです。