□法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問・坂本光司
宮城県気仙沼市に阿部長商店という企業がある。主事業は水産物の加工・販売やホテルの経営などである。
創業は現社長である阿部泰浩氏の父親が1961(昭和36)年、気仙沼港で水揚げされた魚の仕入れ販売業としてスタートしている。時代の変化を予測し、外食事業やホテル事業に進出するとともに、水産業も単に仕入れ小売りではなく、水産物加工にまで事業を展開し、今や地域最大級の企業にまで成長発展している。
幾多の危機が同社を襲ったが、最大の危機はなんといってもあの忌まわしい3・11(東日本大震災)だ。メーンの水産事業部は9工場中8工場が全壊。そればかりか観光事業部も中核のホテルが半壊、物販店も2店舗が全壊という甚大な被災だった。被害総額はなんと数十億円だったという。
同社を知る多くの関係者は、全壊した事業所を目の当たりにして、気の毒だが今度こそは再起は不可能と噂したという。一方、従業員の多くも、たとえ会社が再建できたとしても、解雇は必至と思った。
被災数日後、役員会が開催されたが、社長以外の役員は「全員解雇はやむ無し…」で一致した。従業員も今回は「自分たちが解雇されても仕方がない、それは会社の責任では決してない…」と思った。
加えて言えば、労働局(職業安定所)のスタッフもほぼ全壊してしまった同社を訪れ、「一日も早く全従業員を解雇しなさい…事態が事態だけにそれは許されることです…、雇用を続けると、貴社が大変なだけではなく、従業員が他社に就職できなくなってしまう」と説得した。