破れかぶれともいえるこの賭けは吉と出る。文具店は家族経営が多く、この時間にテレビを見ながら休息をとっていたからだ。予想外のCM効果で、同社は取り扱いを一気に増やすのに成功した。
危機は2年前にも訪れた。表紙写真から昆虫が消えたのだ。教師や母親から「気持ち悪い」とクレームが寄せられたのを受けた措置だった。
「若い先生がチョウを見て、『ガじゃないの?』と。昆虫採集の機会が減ったせいかな…」。片岸社長は寂しそうに話す。
◆ニーズ取り込む
一方で同社は、自ら時代のニーズを取り込む努力も怠っていない。今年11月には、小学校高学年向けに新シリーズ「ジャポニカフレンド」を投入した。表紙に子供の顔のイラストを入れた、「本家」とは趣の異なるデザインで、女の子も受け入れられるよう、かわいらしさを打ち出した。計算用などに使う2冊目の需要がターゲットだ。
かつては、鳥を表紙写真に採用した「バード学習帳」を発売寸前で取りやめたことがある。中学生向けの姉妹商品を実際に発売し、不発に終わったこともある。それでも投入するのは「伝統を守るだけでなく、時代に合わせて需要を喚起しないと生き残れない」(片岸社長)との思いがあるからだ。
ジャポニカ学習帳は、今も富山県高岡市の本社工場で作っている。少子化で、市場環境は厳しい。足元の円安で原材料費の高騰にもさらされ、大手小売店が安価なプライベートブランド(PB)商品を売り出す動きもあるが、片岸社長は「今後も国産を維持したい」と誓う。(井田通人)