【高論卓説】高水準の相場、求められる注意深さ 加藤隆一 (2/2ページ)

2015.3.10 05:00

 株高によるトリクルダウン効果を期待する向きがいる。トリクルダウンは富裕層がさらに豊かになると、富が滴るように貧困層にも浸透し、利益の再分配で経済が活性化するという理論。その真偽をめぐる論争が絶えないが、効果があったとしても利益を最大に享受するのは外国人投資家、効果が及ぶのは海外だ。「株を持たざるリスク」のセールストークに乗って長い行列の後ろに並ぶ投資家は外国人投資家をさらに富ませるお手伝い役になりかねない。

 最近、DOEという言葉をよく聞く。DOEはDividend on equity ratioの略で、日本語訳は株主資本(自己資本)配当率。株主資本に対しどの程度の割合の配当をしているかを示す。ROE(株主資本利益率)と並び外国人投資家が重視する投資指標である。ここ1、2年の増配ラッシュは日本株の保有比率が高まった外国人投資家への配慮かと勘繰りたくなるほどだ。外国人投資家の投資スタンスは「バイ・アンド・トレード(買った後に頻繁に売買)」が基本。投資の果実を性急、執拗(しつよう)に求め、時に株価乱高下の引き金も引く。

 クライマーの山野井泰史氏の著書『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』(ヤマケイ新書)が面白かった。中に、「なぜ僕は死ななかったのでしょうか。それは若いころから恐怖心が強く、常に注意深く危険への感覚がマヒしてしまうことが一度もなかったことが理由の一つ」という記述があった。相場水準の高度は上がった。投資家にも恐怖心と注意深さ、それに潜在する危険への鋭敏な感覚が必要な領域に踏み込んだように映る。

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【プロフィル】加藤隆一

 かとう・りゅういち 経済ジャーナリスト 早大卒。日本経済新聞記者、日経QUICKニュース編集委員などを経て2010年からフリー。65歳。東京都出身

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