□フロンティア・マネジメント 松岡真宏
前職の産業再生機構で、カネボウの再生を担当した。カネボウは業績を悪化させただけでなく、巨額の粉飾決算など多くの問題を抱えていた。過去の経営陣には、不適切な戦略のほか、経営道徳の問題があった。当時の経済メディアでは「粉飾決算をしていたような会社に対して、産業再生機構という国の組織が救いの手を差し伸べるのはいかがなものか」という論調が多かった。
こうした状況下、産業再生機構のある幹部が機構内の会議で「企業再生家の仕事は検事ではない。過去の物語にとらわれている時間はない。われわれが見なくてはならないものは、当該企業の将来の企業価値や雇用能力である」という言葉を放った。そして、カネボウの支援を決定した。
業績不振企業に直面すると、無能な経営者や不道徳な経営者を直感的に想起する習性がある。また、各企業の歴史や経営陣の人となりをベースにした、ある種の“物語”で、当該企業の業績悪化の理由を語りがちだ。こうした“物語”は、経済学や経営学のような社会科学的な議論とは似て非なるものとなる。そして、創業者ら特定の経営者に焦点を当てた文学や経済小説へと変成し、オープンな私的制裁となって流布される。不良債権問題が発生した金融機関に対するメディアの厳しい論調などはその証左だろう。
ただし、過去の責任追及に焦点を当て過ぎると、当該企業の再生にとってマイナスになることも少なくない。訴訟など責任追及のプロセスで時間を浪費し、企業のイメージを悪化させることもありうる。あるいは、新経営陣が前経営陣の戦略を一刀両断に全否定するなど、将来の戦略に対して無意味なバイアスを持つ可能性もある。