「どこもレシピも隠さずオープンで、皆一つのコミュニティーの仲間のような雰囲気なのです。底流には伝統に根差して革新を追求するという思想があります」。さらに和田社長は「米国で近年、進展しているホップ・イノベーション」が背景にあると指摘する。
原料のホップの一大産地である米ワシントン州のヤキマ地方で、新種のホップが盛んに開発され、さまざまな風味のクラフトビール造りを後押ししているそうだ。また「米国では、クラフトビールの造り手と飲み手の交流が活発で、プロとアマの垣根がなくなろうとしている」という。
大手メーカーによるビールとは全く異質なのである。クラフトビールはいわばムーブメント(運動)として盛り上がり、和田社長は「21世紀の食を引っ張るものになります」と予想する。国内ではビール、発泡酒などの大手のビール類が伸び悩む中で、クラフトビールが急増している。とはいえ量的にはまだ微々たるものだ。キリンの2店舗も予想以上に客が入っているが、今年末までの売り上げ目標は7億円である。
しかしIBMがかつて巨人として君臨した汎用(はんよう)コンピューターが、草の根から始まったパソコンに取って代わられた例がある。ビールは違うよと言い切れるかどうか。「まさか」を侮れない時代である。
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【プロフィル】森一夫
もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。65歳。