社員とともに、さあ、これからが本番!【拡大】
「こんな目に遭って、ありがとうと言うのですか?」と驚く人に、こう切り返しています。「言うのよ、初めは無理矢理にでも、ありがとうございますって言い続ければ、そのうち何かが変わってくる。恨んだり呪ったり、誰かのせいにしたり、自分だけは正しいと反省する気がないうちは成長も発展もない。何一つ無駄な経験ってないと分かって、こんな経験を私だけにさせてくださってありがとうといえるようになるときが来るから」
◆辛酸佳境に入る
20代の終わりの頃、起業を2年後に控え、私は一人ベルリンを拠点にヨーロッパの情報サービスを学んでいました。知人にもらったぼろぼろの本の中で、日本初の公害事件といわれる足尾銅山鉱毒事件を告発した政治家として知られる田中正造氏の「辛酸佳境に入る」という言葉に出合いました。
辛酸に出合いながらも、さあこれからいよいよ佳境に入るぞ、というのです。たとえ今わが身は辛酸の中にいるとしても、それを受け止め、さあいよいよ佳境に入るのだという心意気に思わず号泣しました。この状況から逃れようとか、恨むとか、嘆くより、与えられたせっかくの機会を心して味わい尽くすことで、その後の本番人生に生かすことができるはず。
たった一人のベルリンで、気の済むまで号泣し続けました。四大卒の女性だからと厚い時代の壁に阻まれて就職できず、10年間の猶予期間を設けて、アルバイトで糊口をしのぎながら欧米を回っているころで、私も辛酸の極みを味わい尽くしているさなかでした。その言葉は、孤立無援、時として希望の火種が消えそうになる私への天からの一喝のように私の心に響きわたりました。その時以来、その言葉はずっと私の胸に刻まれ、後から来るベンチャーたちにも引き継がれています。