日本が誇る伝統の一つに物作りとそれを支える職人技がある。
職人が培ってきた技と技能、緻密で細部にこだわった仕事は人々を魅了し感銘を与える。職人技とは長年の経験と鍛錬から生まれる「直勘」とか「手触り」という有機的なものであり、デジタルなど無機的なものとは相反するもの、と思っていた。
航空機の技術、中でも大型ジェットエンジンは、2万点以上の部品で構成された最高峰の技術の塊である。ミクロン単位の精細度が要求される航空部品の領域は当然コンピューターで検査・計測されるべきものであり、そこには「勘」とか「経験」という人間のアナログ能力の入る余地はない、と思っていた。
米軍横田基地に隣接するIHI瑞穂工場には年間150以上のジェットエンジンが世界各地の航空会社から持ち込まれる。同工場は世界最大級の航空機エンジンのメンテナンス工場である。航空機には他とは比較にならない程厳しい安全基準が適用されている。全ての航空機は不具合があるなしにかかわらず、定められた飛行時間ごとに全ての部品を検査・交換するよう義務付けられている。この検査と補修がIHI瑞穂工場の主たる業務だ。
持ち込まれたエンジン部品は全て解体され、厳重なセキュリティーの下で管理される。小さなビスが一つなくなってもエンジンは作動しない。部品管理が最も神経を使う。2万点の部品は、一つずつ丁寧に洗浄され超音波、非破壊検査装置を通して劣化状況を調べる。不具合が見つかれば修理・交換する。交換部品がない時は工場内で溶射して部品を工面する。そして全ての部品はまた前と同じように組み立てられる。この間約3カ月、神経を張り詰め気の遠くなるような細かな作業が連日続く。神経の使う長時間の作業をミスなく成し遂げること。これがこの工場の最大の強さだ。その秘密は職人たちの卓越したアナログ技である。