IHI瑞穂工場には13人の“マイスター”と呼ばれる親方がいる。メッキ、非破壊検査、組み立てなど各作業工程で最高の技術を持った工員に与えられる称号だ。この工場には「心技研修センター」とまるで禅道場のような看板が付けられている部屋がある。技術を習得する場というより、むしろ精神を鍛錬する場所である。ここでは最新の計測器による検査はもとよりハイテク機器を凌駕(りょうが)するほどの職人技、すなわち経験、直感、手触りなどの「勘」がミスゼロを担保するための基本であり、そのためには働く者の精神性を高めることが不可欠であると誰もが信じている。
世界最先端のハイテク工場にあふれる精神面での向上心。これがこの工場の最も大きな財産だ。そうした目に見えないものへの投資と訓練が長年にわたって積み上げられ、顧客からの信頼という大きなリターンとなる。今では瑞穂工場は世界の航空関係者から「ミズホ・ホスピタル」と呼ばれる。
寛永6年、徳川斎昭によって造船所として創業されたこの老舗企業は、150年の歴史の中でそのビジネスドメインをいつの間にか変えていた。徳川さんの先見性もすごいが、ここの職人気質(かたぎ)は半端じゃない。日本のオヤジはすごい!
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【プロフィル】平松庚三
ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経てアメリカンエキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長(現職)。他にも各種企業の社外取締役など。69歳。北海道出身。