これが単なる「お願い」ならば、目くじらを立てなくてもよいかもしれない。だが知事は即時停止を迫って2度にわたり「要請」した。事実上、法的根拠なく役所の意思を押し付ける一昔前の悪しき行政指導である。
川内原発は原子力規制委員会の安全審査を通り、地元の同意を得たうえで再稼働した。福島第1原発事故後の新規制基準に合わせて安全対策を講じてきたわけである。
三反園知事は当選した7月の知事選で、川内原発の一時停止を公約に掲げていた。だからといって、法治国家のルールを無視されては困る。
もう一つの大きな問題は「不安の解消」には決め手がないという点である。最近、企業が製品やサービスについて、よく「安心安全」を標榜(ひょうぼう)するが、どうやって「安心」を保証するのだろうか。安全については国や認証機関などによる基準があるので、実務的に対処できる。
ところが「安心」できるかどうかは、感じ方の問題なので人によってまちまちである。とにかく原発が怖いと思う人は、原発が存在する限り安心できないのではないか。
数値化した「安心基準」などできるわけがないから、九電は対処のしようがないだろう。三反園知事は「県民の不安」を思って、善意で九電に川内原発の停止を求めているのかもしれないが、実際には無理難題を言っているのに等しい。
問題は尾を引き、川内原発で予定されている定期検査後の再稼働の際に再燃する恐れがある。無理が通れば道理が引っ込むではいけない。リスクを冷静に見つめて合理的に対応するのが、安全性をより高める道だろう。
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【プロフィル】森一夫
もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。66歳。