しかも「改善は景気のいいときにやれ」という言い方をします。普通なら景気がいいときは改善したくないはず。でも、トヨタは現状維持を極端に嫌うんです。景気がいいからこそ、失敗してもやり直せる。何があってもお金に余裕がある。だから、反対も少ないということなのです。
トヨタはムダを嫌いますが、ケチではありません。だから、「経費を削減しろ」とは言いません。「経費を改善しろ」という言い方をします(笑)。だから、トヨタの人がある会社に行って再建を任されたときに人を切ることはしない。
こうした考え方を非常にうまくトヨタ式に組み込んだのが、大野耐一です。大野は紡績出身ですから、佐吉の影響を非常に受けています。敗戦後に喜一郎は3年でアメリカに追いつけと言いました。でも、当時日本とアメリカの生産性は9倍も違った。そこで普通なら日本人は9倍働くとなるのですが、大野は「9倍差があるということは、日本には9倍のムダがある」という発想をした。アメリカと同じような給料が払えるようにするにはムダを省くしかない。9倍のムダと読み替えたところが大野のすごさです。それはおそらく誰にもなかった発想でしょう。
もともと大野は紡績工場をやっていました。昔の紡績工場では若い女性が働いています。若い女性がたくさんの機械を持って効率よく働き、戦前に世界一になった。それと比べて自動車工場のつくり方はどうもおかしい。自動車の素人だったからこそ、生産性を改善できたということを自分でも言っています。敢えて素人の目を持ち込んだことで問題点を把握できたのです。