東電HDと中部電が火力発電事業の完全統合を決断した。経営改革を急ぐ東電はJERAを皮切りに、送配電や原子力事業の再編・統合交渉にも弾みをつけたい考えだ。中部電も電力需要の縮小が不可避の中、首都圏販売拡大への道筋をつけられるメリットはあるものの、提携拡大には及び腰で、両社の思惑には温度差もある。
東電は30~40年にわたって福島第1原発事故の廃炉や賠償費用を年間4000億~5000億円捻出しなければいけない。柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働が見通せない中、JERAの完全統合で海外展開を加速させ、新たな収益源を育てる狙いがある。
一方の中部電は火力発電比率が高く、燃料調達手法や運転技術などで独自のノウハウを培ってきた自負がある。国の管理下に置かれる東電と組むデメリットや、福島リスクを負わされるのではないかという疑念は消えていない。だが、電力小売りの全面自由化で競争が激化しており、将来的には電力需要の先細りも予測される。経済規模が大きく電力需要が豊富な首都圏進出は中部電にとって魅力的だ。
もっとも、東電との再編・統合をめぐっては大手電力各社から否定的な発言が相次いでおり、JERAの成功例をてこ入れに、一気に再編・統合ムードを醸成したい国と東電の筋書き通りに進むかは不透明だ。(古川有希)