徴税権は国家の主権の一部であり、その在り方はさまざまである。例えば、米国においては属人主義であり、米国人である限り、世界中どこに住んでいても一定以上の所得や資産があれば課税される仕組みになっている。それに対して、日本をはじめ多くの国では居住地主義をとっており、日本に住んでいない限り日本に税を払わなくてもよいことになっている。実はこれが不正の温床で。この問題に対処しようというのが今回の取り組みだ。
9月からは、日本にいる外国人と外国にいる日本人の課税情報がともに交換されることになる。日本では、13年度の確定申告から海外資産5000万円以上の申告義務が設けられ、罰則もつけられた。このため、この自動情報交換で最初の摘発の対象になるのが、海外資産を申告していない人ということになる。また、ナンバーのひも付けなどにより複数の国や国籍を使い分け、不正を働いている人もその対象になる。
これまで国をまたぐ不正を防止する手段がなかったため、日本で所得を申告せず、海外に不正に送金し蓄財しても、それが分からなかったが、これが露見することになる。これはテロとの戦いやマネーロンダリング(資金洗浄)を取り締まる国際的な政府間機関、金融活動作業部会(FATF)の管轄であり、単に税制上の問題だけでなく、テロ対策や犯罪対策と連動して動いていることも付け加えたい。
【プロフィル】渡辺哲也
わたなべ・てつや 経済評論家。日大法卒。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。著書は「突き破る日本経済」など多数。47歳。愛知県出身。