結局、有森が代表に選ばれ、銀メダリストに輝く。表彰台に立っても、わだかまりは消えるどころか、増幅された。その後、2人のライバル物語がTBSテレビ系で制作され、その時、ようやく言葉を交わしたという。
2012年6月、番組の映画版「劇場版ライバル伝説~光と影~」の公開初日の舞台あいさつに立った有森が、松野から届いた電報を紹介した、との記事を社内の資料室で見つけた。
「お話ができてよかった。辛(つら)かったのは私だけじゃなかったと知り、心の中に残っていたものがなくなりました。でも、今でも私なら金(メダル)をとれたと思っています」
松野はトップアスリートとしての矜持(きょうじ)で、引退後の人生を歩んできた。死力を尽くしたライバルにしか分からない心情があるのだろう。電報には、メールとは違う重みがあるのかもしれない。
電報サービス会社の「ヒューモニー」によれば、16年の電報発信数は業界全体で約1500万通。ピーク時の1963年の9461万通に比べると約6分の1に減少したとはいえ、SNS、LINEなどが台頭する中、コミュニケーション・ツールの一翼を担っている。
同社の安達成生取締役事業推進部長は「電報は人の心に刺さり、形として残る情報伝達手段です。有森さんは言葉の重みを感じたからこそ、サプライズ的に読み上げたのでしょう」と電報の魅力を語る。