【高論卓説】国会議論「角を矯めて牛を殺すな」

 ■自由で暮らしやすい日本のために

 最近、衝撃的な国際ニュースが多い。特に「米朝首脳会談の開催決定」「米国がアルミと鉄鋼に新たに関税を課す」「ティラーソン米国国務長官が解任され、マクマスター大統領補佐官も解任へ」など、米国が“アメリカ・ファーストを貫きやすくする国際秩序構築(≒国内選挙対策)”を本格化させたと感じる報道が多い。

 事務的な積み上げ抜きのトップダウンでの米朝首脳会談決定や、政権発足1年で主要閣僚が次々に変わる事態など、経済産業省勤務・留学を通じて米国政治を見た約14年の常識からかけ離れたニュースが毎日のように飛び込んでくる。

 衝撃的なニュースでは、他国も負けていない。中国では、20日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)での憲法改正により、国家主席の任期が撤廃され、2023年以降も続き得る習近平「超長期」政権への道筋がついた。驚愕(きょうがく)の人事も発表され、政治局常務委員を「定年」退任した王岐山氏が副主席となり、李克強首相中心のはずの経済政策でも、アジア危機やリーマン・ショックの際に活躍した王氏や、経済通の劉鶴副首相など、習主席側近主導となるのが明白だ。

 韓国では「政治報復」の結果、李明博元大統領が逮捕され、政権による保守派への攻撃が苛烈になり、ロシアではプーチン氏が大統領選で圧勝し、約四半世紀、実質的に統治する長期政権になる可能性が高い。

 要するに、わが国を取り巻く各国では、もともと独裁的な北朝鮮は当然のこと、米国も中国も、お隣の韓国もロシアも、トップが強権を発動して、物事を大胆に進める体制を整えており、実際、思い切った政策が次々に発せられている。

 個人的には、上記の多くの国のごとき「もの言えば唇寒し」の社会が良いとは思わない。自由で暮らしやすいわが国は相対的に良い社会だ。ただ、国際社会での日本の存在感が激減する傾向、しかも各国が権力集中して思い切った手を打てる状況を踏まえれば、少なくとも国民的に一致団結して対処できることが不可欠だ。

 アレキサンダー大王やナポレオンはかつて「1頭の羊に率いられる100頭の獅子の群れを私は恐れない。1頭の獅子に率いられる100頭の羊の群れはそれに勝る」と述懐した。国民一人一人が立派でも、リードする体制が脆弱(ぜいじゃく)ではどうにもならない。

 つまりは、戦後70年以上、議論ばかりで憲法の文言一つ変えられない日本社会の今後がとても心配だ。さらに言えば、核ミサイルがいつ飛んでくるか分からない状況下、選良たる国会議員やメディアが、国家の最重要課題とばかりに「文書をなぜ書き換えたのか」「書き換えの事実をいつから知っていたのか」などの議論・報道を延々と繰り返す状態は情けない。

 「民主主義を守る」と言えば聞こえはいいが、「角を矯めて牛を殺す」ということわざもある。欠点を直そうとして、直し方を誤り、かえって大局が見えていないということはないか。

 私は個人的に安倍総理をほとんど知らない。歴史観に基づく改革姿勢も不十分に見える。従って、何が何でも安倍総理とは思わない。シリアをめぐる国際会議で、アサド氏を非難する欧米首脳を前にプーチン大統領が「彼は確かに最高の指導者ではないだろう。が、代わりがいるなら言ってみろ」とたんかを切った話を仄聞(そくぶん)したが、現在の荒波の中、“日本丸”の舵(かじ)を切れる代替政権が考えられるのか。対案なしの単なる攻撃は、天に唾する行為だ。

 チャーチルはかつて「民主主義は最悪の政治形態だ。これまで試された全ての政体を除いて」と皮肉交じりに喝破した。国際的に厳しい中で、完璧ではないにせよ、この良き民主主義社会が生き残れるよう、われわれ自身が真剣に考えて行動しなければならない。

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【プロフィル】朝比奈一郎

 あさひな・いちろう 青山社中筆頭代表・CEO。東大法卒。ハーバード大学行政大学院修了。1997年通商産業省(現経済産業省)。プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)代表として霞が関改革を提言。経産省退職後、2010年に青山社中を設立し、若手リーダーの育成や国・地域の政策作りに従事。ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授。44歳。