点数をあえて厳しくした理由
実を言うと、当初はバネを見ても違いがわからなかった。しかし、何とか私なりのコメントと点数をつけた。製造現場の社員たちは、堅苦しいものを嫌うから、コメントも点数もなぐり書きにした。それがちょうどよい距離感だったのか、彼らは「チェックされている」というより「きちんと見てくれている」と好意的に受け止めてくれた。「点数が低すぎる」と憤慨した者もいたが。
それもそのはずで、私の点は厳しかった。あくまでも、思ったままの点をつけたからだ。一方では、問題のない商品に社長が辛口の点をつけているとお客様が知れば、安心してくださると思った。実際に、ある取引先は「図面にも書かれていないことまで、突き詰めようとしてくれている」と評価してくれた。思わぬ効果もあった。不良品率がかなり減ったのだ。誰かが自分たちの仕事を見てくれている--。それだけで、人の気持ち、働き方が変わってくるのだと実感した。
「バネの味見」を始める前、会社として「安・正・早・楽(あん・せい・そう・らく)」というキャッチフレーズを掲げるようになっていた。
安=安心・安全・適正価格
正=正確・正直・高品質
早=必要なときにタイムリーに
楽=お客様の手間を少しでも軽減する
「これら4つの要素を、バネを通じてお客様に提供します」という使命を社員と共有するためだった。「商品がいいのは当たり前で、バネを超えてお客様に何を提供できるのか」が勝負になっている。バネの味見を始めて、その「美醜」にこだわり始めたので、「美」が加わって、「安正早楽+美」を提供する会社になった。