さらに私の背中を押したニュースが飛び込んでくる。トヨタが、トランプ大統領に気兼ねしたのか、17年10月にメキシコ新工場の生産能力を当初予定から半減させると発表した。これで、競合他社はメキシコに行かない(いや、行けない)だろうと思った。私は、逆張りでいくと決断した。
日本市場がこれ以上成長しないという事情もあった。日本市場に頼るのではなく、ドルで稼げるものがほしい。ただ、メキシコに約束された仕事があるわけでない。営業もこれからだ。
ゆくゆくは、日本と同じ給料を払いたい
軌道に乗って、注文が増えたら、現地で職人を育てなければならない。海外で職人養成をやるなら新興国ではなく、先進国だと思っていた。しっかりとした人材にしっかりとした給料を払い、しっかりとした製品をつくって、しっかりとした価格で買っていただく。これが商売の原則だからだ。新興国で生産すると、買い叩かれる。
メキシコはGDPが世界15位前後、人口は1億数千万人。日本とほぼ同じ人口で、首都メキシコシティーは約2000万人都市で、もはや先進国の首都とそん色ない。新興国と先進国の特徴をあわせ持っていた。
メキシコでの職人育成に不安がないといえばウソになるが、安心して働ける環境を与えれば、メキシコの人たちも絶対についてきてくれる、そう信じている。どこの国の人間も、求めているものは安心と安定のはずだ。現地で面接したが、メキシコの人たちは、自分のことをアピールするのがうまい。「こんなこともやりました」「あれもできました」と自慢するけれど、実際には全然できないことがほとんどだった。だから、すぐに転職せざるをえなくなるのだろう。