【論風】SRIとESG投資 低調な日本、意識改革が必要

 □早稲田大学名誉教授・田村正勝

 開発アジェンダの節目の2015年に「国連持続可能な開発サミット」において「持続可能な開発目標(Sustain-able Development Goals=SDGs)」が採択された。ここには貧困、自然環境、エネルギー、平和をはじめとする世界が目指すべき17の目標が挙げられている。

 これを受けて株式などの投資も、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字を取って「ESG投資」が叫ばれる。このESG投資をする「国連責任投資原則」に、世界の年金基金や運用会社など約1800の組織が署名した。

 ◆欧州の年金基金が原動力

 実はESG投資に先立って、2000年ごろから「社会的責任投資(SRI)」が活発となってきた。イギリスの年金基金が、年金法を改正して総資金の24%をSRIとすると、ドイツやオーストリアなども同様の年金法改正を行った。

 そして世界全体のSRIは、14年に全株式市場の約半分の21兆3600億ドル(約390兆円)にまで拡大している。この投資は「法令遵守(じゅんしゅ)(コンプライアンス)」を実行し、環境に配慮した生産・運輸・サービス、つまり「ISOシリーズ」をクリアし、「慈善活動(フィランソロピー)」や「芸術・文化貢献(メセナ)」に参加しているなど、社会的責任を果たしている企業に対する投資だ。

 ◆世界の資産運用残高の3割

 この投資が、特に「環境」「社会」「企業統治」に積極的な企業に対する投資として、16年にはESG投資となり、それが22兆8900億ドルに達している。全世界の資産運用残高の約3割がESG要素を考慮し、特に欧州ではこれが6割を占めている。

 これに対して日本の投資は、14年のSRIが8500億円(70億~75億ドル)で、日本の株式総額の0.16%にすぎなかった。

 しかし16年は日本のESG投資も、4740億ドルと急拡大したが、それでもこれは世界のESG投資総額の2.5%弱だ。日本のこの低調さは、SRIやESG投資の対象となる日本の大手企業が少なく、また投資信託などの運用会社や金融機関もこれを重視してこなかったからだ。

 日本企業、特に大手や財界並びに投資家のこのような意識の低さが、企業の不祥事につながっている。この10年ほどだけでも大手企業の10社以上が粉飾決算、不正会計、検査データ改竄(かいざん)、検査資格のない社員による検査、不正融資等々の嘆かわしい事態だ。

 ◆GPIFが方針転換

 ところで日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は17年時点で約157兆円の資産を持ち、そのうちの24.4%の38兆3000億円弱を国内株式に運用している。

 これと日銀の同様な運用を合わせると54兆円ほどで、これらの公的資金が東証1部上場企業約2000社の3分の1ほどの618社の筆頭株主となった。このように年金基金は株式市場に絶大な影響力を持つ。

 そのGPIFが運用方針を変更してESG投資を増やす。これまで国内株式投資のうち約1兆円をESG投資としてきたが、これを3兆円ほどに、また株式だけでなく債券などに関してもこの投資を広げる。

 とりわけ年金のような基金による株式への投資は、短期的な利益ばかりでなく、企業の持続的な発展を見極める必要がある。

 それゆえGPIFも欧米と同様に、環境や女性の活躍、社会貢献などの評価が高い企業を選ぶことが重要だ。GPIFの投資は株式市場に対する影響力が大きいだけに、このGPIFの方針転換が、日本の企業や株式投資に与える効果を期待したい。

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【プロフィル】田村正勝

 たむら・まさかつ 早大大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。同大教授を経て現職。一般社団法人「日本経済協会」理事長。72歳。