
消費者の体験を変えるFacyを提供する小関翼氏【拡大】
□スタイラーCEO・小関翼氏に聞く
日本のファッションはユニークなことで知られる。同様にファッション市場にも諸外国とは異なる独特の分布がある。
スタイラー(東京都渋谷区)の小関翼CEO(最高経営責任者)は、そのファッション市場を対象にしたO2O(オンライン・トゥー・オフライン)サービス、Facy(フェイシー)を提供する。O2Oとは、インターネット上での接触や情報提供によって実店舗での購買行動に影響を与える施策を指す。Facyはインスタントメッセージの手法で消費者と店舗の関係構築を促し、さらにオンライン決済も備えることでネット上でも新たなファッション市場を作り上げている。米国のファッション市場と大きく異なるところは、Facyに参画するブランドの大半がメガ・グローバルブランドではなく国内の中価格帯ブランドであることだ。
時代に沿ったeコマースへのミニマルな取り組み方で、消費者の体験を変えるFacyの秘密に迫った。
◆全てのQ&A公開
--Facyの仕組みを教えてください
「ユーザーがファッションで知りたいことを質問すると、ブランドのスタッフやショップ店員がそれに回答します。両者の会話は公開されているので、すべてのユーザーがそのQ&Aを閲覧して参考にすることができます。回答内で店舗側に提案された商品を、ユーザーは取り置きしてもらったりオンラインで購入したりできます」
--ユーザーの質問内容は
「かなり幅広いですよ。『オフィスに履いていけるスニーカーはありませんか』といった具体的な質問もあれば、『ファッション初心者なんですが、どこから始めたらいいですか。おしゃれになるにはまず何を買えばいいですか』というような質問もあります」
--ファッション初心者にはどんな提案が寄せられましたか
「この質問は実はとても人気があって、多くの店舗から回答がありました。『リーバイス501のジーンズから始めたら』という提案もあれば『いいスニーカーがおしゃれの基本』という提案もあり、さまざまな意見が寄せられました」
--白熱した議論になりそうですね。ビジネスモデルは
「Facyを通じた売り上げの20%を手数料として店舗から取得します。商品は、配送業者が店舗に集荷に行って、直接ユーザーに届けます」
--ユーザーについて聞きます。どんな人がFacyを使っていますか
「20万人以上の週間アクティブユーザーがいます。活発に利用されているといえますがほとんどのユーザーは自発的に質問をせず、他の人のQ&Aを閲覧することを楽しんでいるようです。平均年齢は25~35歳。ちょうど給料が上がってファッションに使えるお金は増えるのに、自由な時間が減る年頃です。男女比はだいたい半々ですね」
--ファッションサイトの多くは女性または男性のどちらかをターゲットに定めていますが、半々というのはおもしろいですね。しかし、ユーザーの年齢層は理解できます。大学を卒業して働き始めると、ほとんどの人がそれまでのファッションを脱ぎ捨てて、自分のスタイルを再構築しなければなりませんからね。主要ブランドの大半がその年齢層をターゲットにしているのではないでしょうか
「実は、私たちの法人顧客のメインは主要ブランドではないんです。米国でのアパレル市場はラグジュアリーブランドとファストファッションに二分されますが、日本では中価格帯のブランドが多くを占めます。Facyに参画しているのも、ほとんどがその価格帯のブランドです」
--Facyが中価格帯のブランドに人気のある理由は
「ラグジュアリーブランドもファストファッションブランドも巨額の予算と優れたeコマースサイトを持っていますが、顧客の質問に1対1で答える能力は持ち合わせていません。一方、中価格帯のブランドは新規顧客にリーチする新しい方法を探っていて、積極的に新しい手段を試そうとします。また、消費者の側には『ファストファッションよりも高品質の商品を探しているんだけど、ラグジュアリーブランドは求めていない』という人がたくさんいます。Facyは両者を引き合わせられる場です」
◆アジア進出に勝算
--海外展開の予定はありますか
「今年1月に台湾オフィスを開設し、アプリの台湾版をローンチ(投入)しました。私たちはアジア諸国で成功できる可能性があるとみています。経済成長に伴い中産階級が拡大し、ファッションにお金をかける人が増えています。同時に、アジアには24~34歳の人口が多い国がたくさんありますからね」
--Facyは会話に重きを置くTwitterのような存在ですか。それとも、つながりに重きを置くFacebookのような存在ですか
「どちらかといえば、Facebookでしょうか。店舗に対して、顧客との長期的な関係を築き、彼らのファッション・アドバイザーになるよう促したいのです。Facyのプラットフォーム上で顧客との関係構築・維持に役立つツールを開発中です」
--Facyでは質問を文字でしなければなりませんね。ファッションは視覚的ですが、なぜ文字に絞っているのですか
「店舗側の回答では写真を添付することができますし、実際によく写真が使われています。一方、ユーザーが質問をする際には、ベータ版に写真投稿機能を付けましたがあまり使われなかったため、文字に限ることにしました。最終的に重要なのは視覚性よりも、コミュニケーションと信頼だと思います」
--AIやチャットボットは使っていますか
「店舗が利用できるチャットボットの開発を試みているところです。将来、AIでの接客はとても重要になってくると思います」
--AIやチャットボットの普及によってラグジュアリーブランドに力が戻ってしまうのではないですか?現在Facyではスタッフやオーナーが顧客と1対1で会話してアドバイスを提供できるため、中価格帯のブランドにとって最適なサービスです。しかし、主要ブランドが予算を投じていいチャットボットを作れば、Facyにチャットボットが実装されたときに強みを発揮してしまうのでは
「確かに鋭い指摘ですし、ある程度は当たっているかもしれません。しかし、チャットボットはツールに過ぎません。顧客との真の関係を築けるのはボットではなく人間だと思います」
--より個人的なeコマースが伸びれば、主要ブランドを脅かすほどの存在になると考えていますか
「いつの時代も、主要なラグジュアリーブランドには存在する場があるでしょう。でも、ファッションがどんどん個人的な体験になっているのは事実です。消費者はかつてのように、おしゃれの手がかりをテレビや雑誌から得ることが少なくなっています。スマートフォン片手にソーシャルメディアで過ごす時間の方が長くなっているからです。生活の中でマスメディアの相対的な重要度が下がり、それに伴って自然とマスファッションの位置付けも下がっています」
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Facyが象徴するのはファッションに対する新しい考え方だけではない。小関氏が示唆したとおり、ファッションのメディア依存と私たち消費者のメディア利用法の変化から導かれる自然な結果が表れてきたといえる。
近現代のファッション・ブランドはテレビや雑誌といったトップダウンのメディアに依存している。一握りのグローバルブランドやデザイナーが流行を定義づけ、メディアを通じてそれを世界に放送し、大半の消費者がそれに従ってきた。
それを変えるのがソーシャルメディアである。ファッションはより個人的なものになり、人との対話から流行が生まれるようになった。技術の力により、ブランドやショップと消費者の間で対話が可能になったからだ。これからのブランドはファッション・リーダーから一人一人に寄り添うファッション・アドバイザーに変わっていかなければならない。
今日トップをひた走るメガ・グローバルブランドの中に、その変化に対応できるブランドがいくつあるだろう。
文:ティム・ロメロ
訳:堀まどか
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【プロフィル】ティム・ロメロ
米国出身。東京に拠点を置き、起業家として活躍。20年以上前に来日し、以来複数の会社を立ち上げ、売却。“Disrupting Japan”(日本をディスラプトする)と題するポッドキャストを主催するほか、起業家のメンター及び投資家としても日本のスタートアップコミュニティーに深く関与する。公式ホームページ=http://www.t3.org、ポッドキャスト=http://www.disruptingjapan.com/