【講師のホンネ】心のバリアフリー 白倉栄一


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 車椅子でも生活しやすい環境を創るために、「心のバリアフリー」が少しでも身近になればと思い、日頃からセミナー・研修などを実施している。セミナーの受講生から「車椅子に乗っている人を見かけて『何か手伝うことはありませんか?』と声を掛けると嫌がられることがあります。むしろ声を掛けない方がよいのでしょうか?」という質問をよく受ける。

 自分と相手の気持ちは一致するとは限らない。お手伝いしたら喜ばれるに違いないという半面、断る人もいるだろうとあらかじめ想定しておくことも必要だ。声をかけたのに一方的に断られたことで傷つくこともある。断る理由は、いくつか考えらる。

 1つ目は「自分一人でやりたい」と思う気持ち。健常者の人から見たら、一つ一つの行動が遅く感じるかもしれない。ゆっくりでも自分のペースでやりたいと思う人はいる。例えば、ケガをしたときのリハビリを想像してみてほしい。何とか一人でできるようにしなければならない思いが強くなり、そんな時に大変そうだから手助けしてあげるといわれても断ると思う。

 2つ目は、見ず知らずの人に手伝われるのが嫌な人もいる。もしかしたら「悪い人が傍に寄ってきたのでは?」と警戒する人もいるだろう。

 3つ目は、障害者や高齢者として扱われるのが嫌な人もいる。4つ目は、脳出血や脳梗塞の後遺症によって性格が怒りっぽくなる人もいる。

 もちろんそれ以外の理由もある。だからといって、お手伝いをするのをやめようと思わないでほしい。あくまでも断られたからといって、全員が同じ考えとは限らない。実際に助けが必要な人もいる。

 大事なことは、相手の表情を見て、困っていると感じたら声を掛けようという気持ち。もし断られたとしても相手の気持ちを尊重してあげることが大切だ。本来であれば、断る側も親切にしてくれた相手に対して丁寧に断る心の姿勢を持ちたいものだ。親切にしてくれた人への感謝の気持ちだけは決して忘れてはならないと思う。

 お互いのコミュニケーションを通して、障害などの有無にかかわらず、誰もが生活しやすい環境創りをこれからも目指していきたい。

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【プロフィル】白倉栄一

 しらくら・えいいち 1972年千葉県生まれ。ジャスコ入社後、24歳のとき、交通事故により、一生車椅子生活の宣告を受ける。車椅子ユーザーの立場から、業務改革に取り組み、38歳で人事総務課長に就任、店舗責任者となる。現在は、「車椅子ライフデザイナー」として、車椅子でも生活しやすい環境を創っていくための活動を行っている。