【ベンチャー支援の現場から】ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド

調印書を手に握手する神奈川県の黒岩祐治知事(中央)とキャピタルメディカ・ベンチャーズの青木武士社長(右)、社会的投資推進財団の青柳光昌代表理事=横浜市中区の神奈川県庁
調印書を手に握手する神奈川県の黒岩祐治知事(中央)とキャピタルメディカ・ベンチャーズの青木武士社長(右)、社会的投資推進財団の青柳光昌代表理事=横浜市中区の神奈川県庁【拡大】

 ■事業活動の社会的影響を評価

 ベンチャーキャピタル(VC)のキャピタルメディカ・ベンチャーズ(CMV、東京都港区)と社会的投資推進財団(同)は、神奈川県が3月に組成したヘルスケアベンチャー企業を投資対象としたファンド(基金)「ヘルスケア・ニューフロンティア・ファンド(HCNF)」に、投資先企業の事業活動がもたらす社会的影響を加味した評価手法を導入することで、県と合意した。

 投資ファンドは事業の成長性や採算性を重視するが、HCNFではそれに「社会的インパクト評価」が加わる。この評価方法は、社会的投資推進財団が考案したもので、投資先企業が開発した技術やサービスについて、社会にどの程度のインパクトや波及効果をもたらしたかを数値や指標などを用いて可視化できるのが特徴だ。

 HCNFの投資先の一つ、東京大学発ベンチャーのリリーメドテック(東京都文京区)は、低侵襲の乳房用超音波画像診断装置の開発に取り組んでいる。もし実用化すれば、「マンモグラフィーを使う検診よりも身体への負担が軽く、検診の受診率が向上する。早期発見につながれば、乳がんによる死亡率も下がる可能性があるといった評価が考えられる」(社会的投資推進財団の青柳光昌理事長)という。同財団では投資先企業ごとに年1回の割合で評価リポートにまとめて公開する。

 利益の追求と社会課題の解決は両立しないイメージが根強いが、2015年9月、30年を目標とした「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連総会で採択されて以降、先進国、開発途上国を問わず、企業の間で社会課題解決への関心が高まっている。

 CMVの青木武士社長は、神奈川県庁での調印式で「ヘルスケアベンチャーは何らかの社会課題の解決を目的に設立されたケースが多く、事業の成長とともに、社会課題解決に貢献できる面が少なくない」と話した。

 欧米社会のように、社会課題解決といったテーマを追求することが、企業価値の向上につながる投資モデルが構築できれば、日本でも社会的インパクト投資が普及する可能性が高くなるとみられる。