起業医師増加、働き方多様化 金融や商社の投資先に、大学も後押し

 起業する医師が増えている。医療現場や制度を変えたいという熱意から、ベンチャー企業の経営に飛び込むことを決断。起業を後押しする大学もあり、医師の働き方が多様化し始めた。

 オンライン診療システムを提供するベンチャー企業、メドレー(東京)で働く豊田剛一郎さん(34)は脳神経外科医だ。病院の勤務医として働き始めたが、少人数で重病患者を受け入れる夜勤をこなす、過酷な勤務を強いられた。研究で訪れた米国の病院は患者にしっかりと向き合えるよう、医師や職員を十分に配置していた。「医療の現場を救う医者になってはどうか」という病院の上司の言葉に背中を押され、外資系のコンサルタント会社に転職。

 医薬品のシェアを上げるなど企業の経営戦略に関わる経験を積み、小学校時代の塾の同級生が創業したメドレーに共同経営者として参加した。「代表取締役医師」の肩書で行政機関や企業を回る。

 豊田さんは「楽しそうだと思ったら、医療の現場以外の道を選んでもいいという機運は高まっている」と話す。金融機関や商社が医療や健康にかかわる事業を有望視し、投資先として力を入れていることも追い風だ。

 医師求人サイト「リクルートドクターズキャリア」によると、臨床医として一定の経験を積んだ35歳前後がキャリアの分岐点だ。医師出身のベンチャー経営者は30代が目立つ。

 大学も起業家の育成に積極的だ。慶応大医学部は医療ベンチャーの100社創出を目指し、2017年から優れた技術を表彰するコンテストを開催している。

 実行委員長で起業経験のある田沢雄基医師(29)によると、女性医師の増加などで「若いうちは病院に住み込むように働く」といった旧来型の意識に変化が表れ始めている。会員制交流サイト(SNS)で他学部の学生の起業に刺激を受ける医学部生もいるという。

 17年に優勝した慶大医学部4年の大木将平さん(22)は「医師として働くだけでは助けられない患者や、解決できない問題が多くある。法律や制度を変えても対応しきれない」と思い、起業に興味を持った。現在は医療ベンチャーのインターンシップに参加する。

 獲得した賞金を元手に会社を起こした人もいる。同大学院では今年4月、起業したOBらが資金調達の仕組みなどを教える講義が始まり、約20人が学んでいる。

 田沢医師は「起業した医師はまだ少ない。ベンチャーから出発し、株式の上場にこぎ着ける能力と経験を共有できれば」と語っている。