【中小企業へのエール】企業買収と経営 日本の明日のために教育が重要

 □旭川大学客員教授・増山壽一

 今、日本経済は史上例がない、とても奇妙な状況にある。1990年代から、気が付くと30年も続く景気の低迷。一貫して、バブル期に積み重ねた、雇用、設備、債務の3つの過剰が元凶といわれ続けてきた。

 企業は一生懸命に債務を削減し、契約社員を増やして雇用調整を進め、「集中と選択」のもとに、不要不急の設備や資産を売却した。

 そう。みんなで坂の上の雲を目指して、坂を一生懸命登ってきた。そして今、坂を登りきると全く違う世界になっている。

 企業は史上空前の内部留保を抱え、何に投資すればいいか分からない。雇用状況はいつの間にか人手不足となり、あらゆる手段で人を正規に雇い入れようとする、それでも来てくれない。設備は技術革新のスピードがあまりにも早く、過去の整理ばかりに気を取られ、追加投資をしなかった影響が一気に出て、海外企業の新鋭設備との差が大きく広がっている。

 そんな中、国家財政だけは確実に“破綻”に突き進む。国内総生産(GDP)の2倍以上もの借金を抱え、堂々世界最大の債務国でありながら、幸運にも国民は低金利でも国債を買い、国内銀行にお金を預けてくれて、外国からの借金が比較的少ない。このためギリシャや南米の国のように国家が破産せずに済んでいる。

 不思議なことに中東では、政治危機や軍事衝突などで金融不安が起きると、真っ先に円が信用ある通貨として買われる。

 ただ、その全ては世界の人が日本、そして日本人に抱いている、勤勉性、誠実性そして革新性のイメージに基づいている。

 これからは教科書通りの、そして欧米人中心の経済理論だけでは日本は生きていけない。では、何をなすべきか。

 答えは、教育を何よりも大事にすることだ。誠実で勤勉で、イノベーティブな人がいかに多く日本にいるか、その一点を目指さなければいけない。

 内部留保が多くある企業の経営者が、航空機リースファンドのもうけが大きいから資産を置き換えるとか、積極果敢に海外企業を買収するとか…、それだけではあまりに経営者として情けない。人へ投資し、既存の企業を単に外国の投資会社から紹介されるままに買うのではなく、全く新しいベンチャーを育てる。そういうことにエネルギーを注がない限り、日本に明日はない。

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【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。17年4月から旭川大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。56歳。