【高論卓説】自動車産業にとって米は敵ではない 第2の母国市場、ともに発展の道探れ (2/2ページ)

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 カナダの目途(めど)付けが終われば、次は休戦中の米・欧州連合(EU)の交渉である。米国とEUは世界貿易機関(WTO)改革で緊密に連携する方向だ。この交渉進展が来年に向けて期待できるだろう。最後に残るのが対日交渉だ。対日カードはトランプ米政権にとっては、他の交渉結果を見ながら姿勢を定めていく方向であり見通しが立たない。

 日本の産業基盤である国内自動車産業への影響の甚大さを懸念する報道が多い。影響は確かにあるが、それを恐れて尻込みすることは、交渉の主導権をみすみす米国に奪われるだけだ。日本はこの交渉を契機に、危機をチャンスに切り替えていく考えに立つべきだ。

 日米貿易赤字削減が重要課題であれば、国内販売で米国車販売を拡大させるには限界があり、対米輸出台数を数十万台単位で調整することは避けては通れない可能性がある。これは、トランプ政権樹立後から覚悟してきた究極の交渉カードだ。国内車体課税の見直しなども含め、日本市場アクセスの非関税障壁の不信を取り除くカードも含めて、したたかに交渉を勝ち取ってほしい。

 米国で生産される日本車の国際的な競争力に結び付け、米国自動車産業の発展とともに、激変の世界自動車競争を戦っていく力とすべきだ。国内自動車産業にとって米国は敵ではない。国内と並ぶ第2の母国市場である。米国自動車産業の競争力の発展は、日本車メーカーを支える力となる。

 国内自動車産業にとっては現在の交渉は試練である。しかし、過去からこういった試練を乗り越えて、飛躍を遂げてきたのが自動車産業だ。新ルールが定まれば、そのルールに従って再起を図っていけるだろう。自動運転技術、コネクテッド、電動化などの技術革新の現地化を進め、第2の母国市場である米国とともに発展していく道を探るべきだ。

【プロフィル】中西孝樹

 なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「トヨタ対VW」など。