嵐の中でも消えないとされる「ハリケーンランプ」を製作する職人が、町工場が並ぶ大阪府八尾市にいる。ランプ製造会社「WINGED WHEEL」(ウイングド・ウィール)社長の別所由加さん(29)だ。100年近く続いた家業を継ぎ、消えかけた「日本製の明かり」をたった一人で守っている。
1924年ごろ、由加さんの曽祖父、留吉さんの兄が、金物問屋からハリケーンランプの製造を依頼されたのが始まりだった。ほうろう職人の留吉さんがドイツの製品を解体して研究を続け、約10年かけて完成。留吉さんが「別所ランプ製作所」を立ち上げ、製造を本格的にスタートさせた。
日本製の評価は高く、別所ランプは輸出で事業を拡大。ベトナム戦争時には従業員約200人が1日2000個を作った。
しかし、電気の普及で国内のランプ会社は相次いで姿を消し、唯一残った別所ランプも2003年に倒産。翌年、由加さんの母、二三子さん(67)が再建するも、11年に最後の職人が亡くなった。
二三子さんが諦めていたとき「私がやるから心配せんでええ」と手を挙げたのが、当時芸大で音楽を学んでいた由加さんだった。周囲の反対を押し切り、大学を中退。職人の道へ進んだ。「ランプがなくなることだけは絶対あかんと思った」
職人の世界は「見て体で覚えろ」。設計図やマニュアルは残っていなかった。作り方を知る古株の工場長だけが頼り。
「女は工場に入るな」という昔かたぎの工場長から工程を学び、試行錯誤を重ねた。図や写真とともに説明を書き込んだノートは約60冊に及ぶ。
東日本大震災で被災した岩手県岩手町の農家から「ビニールハウスのランプが割れた。急いで送って」と電話があったことも。「まだ使ってくれているんだ」と心が震えた。
現在は半年で40個を製作するのがやっと。オンラインショップのみで販売し、1年待ちの状態だ。
「海外製には負けない。いずれは輸出に再挑戦したい」。これからも日本製ハリケーンランプの灯をともし続けていく。
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【会社概要】WINGED WHEEL
▽本社=大阪府八尾市北亀井町2-5-5
▽設立=2007年
▽資本金=300万円
▽従業員=2人
▽事業内容=金属製品製造