栃木県佐野市のご当地グルメ「いもフライ」は、一口サイズのジャガイモを串に刺したシンプルな揚げ物。5年前、ゆるキャラグランプリで1位になった佐野ブランドキャラクター「さのまる」も腰に2本のいもフライを差した姿で、市民に定着したソウルフードだ。
◆昔ながらの手法
いもフライは戦後、バイクにリヤカーを引いて売るスタイルが主流だった。現在、「いもフライの会」加盟店では、1本70~100円や2本200円という手頃な価格で販売されている。
ジャガイモを揚げただけだから地味だと感じるが、これが何ともうまい。人気店には、イモの品種や産地を厳選し、パン粉や油、道具に気を配って作る店もある。目の細かいパン粉が油を吸い、揚げたてはサクサク。冷めてもソースが染みて「うまみが増す」という声もある。
そして味の決め手はソース。いもフライの会には市内のソース会社、フルーツソースの早川食品とマドロスソースの半久(はんきゅう)食品工業の2社が参加。特に、早川食品の早川隆社長は、いもフライの会を立ち上げた中心人物だ。「昔ながらの作り方。生野菜から煮込んでソースを作る」と早川社長。甘みのあるソースをたっぷりと付けると、いもフライの味もまた引き立つ。
ソース作りには手間や時間を惜しまず、野菜を生の状態から煮込む。早川社長は「アナログの部分を残したい」と強調。多くのメーカーが野菜をペーストにして保存し、ソースのもとにしている。同社も一時期、ペーストを使っていたが、社長に就任した約20年前、「少し、昔に戻さないか」と提案した。
本当においしいのは旬のもの。旬の野菜を使えば、時期によって産地が違い、味も違う。ペーストがあれば、年間通して同じ味に整えられるが、季節によって味が違うことも消費者に受け入れられた。煮込み過ぎると、えぐみや灰汁が出るので、見極めも必要だが、野菜のうまみが十分に出れば、加える塩分を抑えることができる。
使う水は日本名水百選に選ばれた出流原(いずるはら)弁天池湧水の伏流水だ。古生層石灰岩の割れ目から清水が湧き出してできた浅い池をコイが泳ぐ地元の名水。厚い土の層をフィルターとして濾過(ろか)され、水温は年間を通し、16度前後を保ち、水量も豊かだ。
いもフライだけではない。北関東の地元グルメにはソースを使うものが多く、群馬県桐生市などのソースかつ丼や同県の伊勢崎もんじゃはウスターソースが合うといい、焼きそばソース、中濃ソースなど専門店ならではのラインアップが北関東のソース文化を支えている。
◆農商連携、地域貢献も
早川食品は、10年以上前から地元の栃木県立佐野松桜(しょうおう)高校と高校生のオリジナルソース作りに関わっている。
また、水産科があり、アユの魚醤(ぎょしょう)作りに取り組んでいた同県那珂川町の県立馬頭高校に対し、早川社長は「佐野松桜高のソースとコラボしてみては」と提案。両校生徒による共同開発の「馬松(ばしょう)やきそばソース」誕生につながった。
他社やJAなどと連携し、プライベートブランドとしてオリジナルソース製造を提案している。市場で販売できない規格外や余った果物、野菜を使うことができ、オリジナルラベルで特産品をPRする機会にもなる。
「素材の持っている力は強い。地元にはいいものがいっぱいある。地元で商売している以上、佐野に人を呼び込み、地域経済が潤わないと。きっかけはソースでも、さのまるでもいい」。早川社長は地域貢献に力を入れる理由をこう説明する。(水野拓昌)
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【会社概要】早川食品
▽本社=栃木県佐野市田島町168-1 (0283・22・0905)
▽創業=1936年
▽設立=1962年
▽資本金=1000万円
▽従業員=7人
▽事業内容=ソース、ラー油、調味料などの製造、販売
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□早川●社長
■アナログな部分を残して差別化
--ミツハソースの特徴は
「日本名水100選の出流原弁天池湧水の伏流水を使い、生野菜を煮込んで作る。大手はやらない方法だ。生野菜を使うと季節で産地が違い、味が違う。均一の味にならないため大手はペーストを使うが、旬の野菜で季節によって味が違うことが逆に支持された。他社は簡素化しただけで、昔はどこも生野菜からソースを作った。子供の頃うちにはタマネギがゴロゴロしていた。わが社も一時、ペーストを使ったが、社長になったころ『昔に戻そう』と言ってみた。生野菜を使うと、(ソースを仕込む)前日はタマネギの皮むきに一日かかるが、それくらい余裕を持ってやらないと」
--いもフライにも使われる
「いもフライはジャガイモを一口大にしてパン粉で揚げたシンプルなもの。味も想像できるが、みんな意外においしいと驚く。そのギャップがいい。うちのソースは、野菜のうまみが出ていて低塩。いっぱいかけてほしい。栃木県南部はソース文化が根付き、地場のソース会社も多かった。昔は、地場商品は大手よりも安く売っていたが、今は全く逆。機械化する一方で昔の作り方も残し、アナログな部分もあって差別化できている」
--地域貢献にも力を入れてきたが
「いもフライの会を設立して15年。高速のインターチェンジ近くにアウトレットモールができた頃、街にどう誘客するかを考え、やはり食べ物だと思った。会社を守らないといけないが、佐野を盛り上げることも商売につながる。まちおこしは一人ではできないし、民間と行政の連携も必要。地域で商売するには地域をどうしていくか考えることは必要」
--今後の展望は
「目標は、佐野市の各家庭に必ずうちのソースが1本あること。これが大きな野望。地元で愛されることが栃木県で愛されることになる。日本一おいしく、愛されるソースにしたい」
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【プロフィル】早川●
はやかわ・たかし 1987年大東文化大卒。東京のソース会社に入社。実家に戻り、90年早川食品入社、95年から社長。54歳。栃木県出身。
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≪イチ押し!≫
■限定1000本のフルーツソース
栃木県産のフルーツをふんだんに使い、限定商品として発売される早川食品の高級ソース「プレミアムフルーツソース2018」。ワインのような瓶に専用化粧箱もあり、存在感が漂う。
中身も原材料を厳選し、矢板市産リンゴ「ふじ」や高根沢町産ナシ「にっこり」、足利市産トマト「桃太郎」、大田原市産トウガラシ「栃木三鷹(さんたか)」などの県産品が中心。生野菜と果実の自然な甘さを生かし、佐野のおいしい水でじっくりと仕込む。
さらに今回初めて栃木県を代表するイチゴ「とちおとめ」も加え、早川隆社長は「種の処理は苦労したが、地場の産品、旬のものを入れてソースを作りたいという思いがある」とし、お中元、お歳暮での利用も多いという。360ミリリットル1200円、500ミリリットル(専用化粧箱入り)1854円。1000本のみの限定販売。
●=隆の生の上に一