「値上げはしない」 苦境の吉野家が挑む“初めてのマーケティング” (3/3ページ)

 「並盛偏重」からの脱却を

 ただ、伊東さんは大手チェーンの中でも牛丼に売り上げが偏りがちな、吉野家特有の問題も挙げる。コスト高が続く一方で、依然として人気は単価の安い牛丼に集中している。「結局は(牛丼並盛に)380円払う客が一番大事な客。だが、一番うまいのがその並盛という状況を脱却したい」(伊東さん)。今後は牛丼の変わった食べ方提案を通して付け合わせのサイドメニューを売り込むことで、単価を上げる施策もとっていく。

 値上げなどの分かりやすいコストの転嫁でなく、マーケティング施策で吉野家の収益は改善するのか。外食産業に詳しいいちよし経済研究所の主席研究員、鮫島誠一郎さんは「前提として今や『牛丼=吉野家』の時代ではなくなった」と指摘する。

 「過去の成功体験が一番厄介」

 鮫島さんによると、吉野家の1店舗当たりの客数は1990年代の半分くらいにまで落ちた。競合の台頭が大きいといい、「若者は牛丼というと松屋やすき家をイメージする。吉野家を思い浮かべるのは年配の人が多くなってしまった」(鮫島さん)。

 しかも、牛丼並盛に人気が偏っている点もやはり問題とみる。「吉野家は他牛丼チェーンよりさらにファミリー層やグループ客が少なめで、1人で牛丼並だけ頼む客が恐らく5割以上。そこに牛丼を値上げすれば客数は下がるだろう」(鮫島さん)。

 逆風からの脱却のヒントとして鮫島さんが挙げるのがマクドナルドだ。00年代にハンバーガーの半額キャンペーンを行っていたが、値上げしたらやはり売り上げは下がった。現在は100円のハンバーガーも売っているが、それよりビッグマックなど高価格帯の商品を推してハンバーガー類自体のイメージを変えた。値上げ自体はしていないが、客単価を上げることに成功したという。

 翻って、消費者には吉野家への「安い、うまい、早い」のイメージがまだ根強いとみる。「吉野家が変わりつつあることを消費者はあまり知らないのではないか。やはりマーケティング(によるイメージ転換)は重要になる」(鮫島さん)。加えて、夜限定でパティを増やすことのできるマクドナルドの「夜マック」のように、吉野家でも値上げをせずに単価の上がるメニュー面での柔軟な挑戦が必要と考える。

 鮫島さんは「吉野家はもともと、牛丼を提供するのに松屋やすき家よりはるかに効率的なシステムを作っていた。しかし、一番厄介なのが過去の成功体験だ」と分析する。BSE(牛海綿状脳症)で起きた米国産牛肉の輸入停止による牛丼販売休止など、幾度の危機を乗り越えてきた吉野家。コスト高という根深そうな問題を前に、マーケティングに工夫を凝らすことで対抗できるか。