【主張】日産統合を提案 企業価値を損なう介入だ

 仏自動車大手、ルノーの筆頭株主である仏政府が日本政府に対して、ルノーと日産自動車の経営統合を提案した。共同で持ち株会社を設立し、両社がその傘下に入る案を提示したようだ。

 両社のトップを兼ねていたカルロス・ゴーン被告が特別背任の罪などで起訴されたのを受け、日産への影響力低下を恐れた仏政府がルノーによる主導権の維持を目指した動きといえる。

 しかし、ゴーン被告の不正行為はいまだ全容解明に至ってはいない。再発防止に向けた企業統治の強化も始まったばかりである。この時点で両社の関係を見直すのは性急に過ぎよう。

 まずはゴーン被告への過度な権力集中が、企業統治を機能不全に陥らせた反省が不可欠だ。そうした検証を抜きに新たな統治体制は語れまい。仏政府も企業価値を損なうような介入は慎むべきだ。

 来日した仏政府代表団のルノーの取締役やルメール経済・財務相の側近らが、日本政府に両社の経営統合を求めた。すでに日産は昨年11月にゴーン被告の会長職を解任しているが、ルノーも近く最高経営責任者(CEO)の職を解くとみられる。こうした「ゴーン後」をにらんで仏政府が先手を打ってきたとみられる。

 すでにルノーは、後任の日産会長もルノー側から送り込む意向を示している。日産はこれを拒否しているが、両社の主導権争いは今後、一段と激化するのは確実である。攻勢を強めるルノーや仏政府に対し、日本政府も毅然(きぜん)とした姿勢を示す必要がある。

 日産と提携関係にある三菱自動車が共同でまとめた報告では、ゴーン被告は日産と三菱自が設立した統括会社から、約10億円の不正報酬を受け取っていたことも新たに判明した。両社は損害賠償を検討するというが、こうした不正の徹底調査も欠かせない。

 最近のルノーは業績が低迷し、売上高や利益は日産が大きく上回る状況にある。だが、ルノーは日産に43%出資する筆頭株主として議決権を持つ一方、日産はルノーに対して15%の出資にとどまり、議決権もない。日産にはこれを是正したいとの思惑もある。

 両社による提携は「世界で最も成功した自動車提携」とされ、大きな成果もあげている。提携関係の見直しは企業価値の向上に資するものでなければならない。