【2019 成長への展望】東レ社長・日覚昭広さん(70)


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 ■素材メーカーとしての自信と誇りを

 --世界の政治が混迷の度を深めている

 「今も続いていると思うが、金融資本主義のひずみが生じてひと握りの人々が富の大半を握り、実体経済に悪影響を与える傾向が顕著になっている。格差への不満が、英国の欧州連合(EU)離脱やフランスのデモ、米中貿易摩擦となって現れている。企業はこれまで自力で利益を上げてこられたが、どうなるか先が読めなくなっている」

 --中期経営計画は最終年度である2020年度の目標達成が難しくなっている

 「本業のもうけを示す連結営業利益は2500億円を目標にしているが、達成は難しい状況だ。基本的にはやるべきこともやり、事業も拡大したが、原燃料価格が予想以上に上がったため、中計策定時から1年半で想定より300億円超も利益が押し下げられた。炭素繊維事業の費用増もあり、それらを差し引けば2000億円近くまではいく」

 --リチウムイオン2次電池部材のセパレーター(絶縁材)で中国勢が追い上げている

 「電池需要はもっと伸びる。世界の自動車生産全体に占める電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の割合が2、3割になっただけでも2000万台になるので当面は問題ない。それに当社のセパレーターは燃えにくいなど高機能な点で中国製品とは違う。樹脂も耐熱性や強度に優れた『スーパーエンプラ』など高機能品が多く、紙おむつ向け不織布やディスプレー用フィルムなども同様だ。高機能で勝負していく姿勢は変えない」

 --18年7月にオランダの炭素繊維加工メーカーを約1200億円で買収した

 「買収後に投資し、収益は拡大している。昨年10月に現地へ行ったが、3年ぐらいで売上高を倍増させられると思っている。自動車向けに高機能素材を売り込むには、次世代の高級車に採用されることが重要。そうなると欧州自動車メーカーがターゲットになる」

 --国連が掲げる持続可能な開発目標「SDGs」達成に向けた取り組みが企業にも求められている

 「それは日本企業の以前からのやり方だ。日本的経営に自信を持ち、以前からそうしてきたことを積極的に世界へ発信していくべきだ。これから環境問題を含め、世界規模の課題がどんどん出てくる。それらを解決するのは革新的な素材だ。人工知能(AI)などは新素材の開発があったからこそ生まれた。社員には、『素材メーカーであることに自信と誇りを持っていこう』と言っている」

【プロフィル】日覚昭広

 にっかく・あきひろ 東大大学院工学系研究科修了。1973年東レ入社。2002年取締役、07年副社長などを経て、10年6月から現職。兵庫県出身。