【講師のホンネ】夢に向かってただいま成長 柿澤一二美

柿澤一二美
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 日頃、家族向けのカウンセリングの仕事を行う中、捨てきれない「夢」が1つあった。

 10代の頃に老舗の劇団文学座を2度受験するも合格せず。あれから30年。50歳になり、3度目の受験をした。それは「文学座プラチナクラス」。40歳以上のシニア世代が本格的に演劇を学ぶクラスだ。22人の第8期生として念願叶(かな)ってついに合格。しかし同期には声楽家、俳優…。実力の差をすぐに感じた。

 プラチナクラスでの8カ月後の卒業公演はシェークスピア作「夏の夜の夢」。アテネ近郊の森に足を踏み入れた貴族や職人、森に住む妖精たちが登場する。詩人であるシェークスピアの作品は、さまざまな趣向が凝らされ、多彩で豊かで、その上400年以上たった今でも色あせない。だが、せりふ回しはプロでも難しい。

 私の役はハーミア、10代の女の子だ。父親の決めた婚約者との結婚を拒み、相思相愛の相手に自分の決意を伝えるせりふがある。

 「誠の恋が常に妨げられるのであればそれはもう動かしようのない運命のおきてということね。とすれば私たちの苦しむ心に忍耐を教えましょう。妨げられるのが常である以上、苦しみは恋にはつきもの、かわいそうな恋のお伴なのだから」

 このハーミアの言葉を聞いて、恋人のライサンダーは心を動かされ、駆け落ちの決意をするすてきなせりふだ。

 しかし、文章とせりふは違うのだ。文学座プラチナクラスに通い始めて気が付いたこと、それは、私は言葉に感情が乗らない。せりふを言おうとすると、言葉が平坦(へいたん)になる。10代の私が文学座に2度落ちた理由が自分でも分かった。

 最後のチャンス、逃げたくない! シェークスピアの専門家の門をたたき、指導を仰ぐと、文学座よりもさらに厳しい指導。「君は日常でそんな言い方をするの?」「そんな変な言い方、普段していないよね」

 レッスンが進むと、言葉はさらに厳しくなっていった。「君のせりふには心がない、白痴だ」。悔しい気持ちで涙がでた。「『白痴』って言われた」。そう親友に話すと「大人になって本気で叱られるって、成長すると思われているからじゃない? つらそうだけど、羨(うらや)ましい」と。

 成長するのは子供だけではない。50歳の私「ただいま成長中」である。

【プロフィル】柿澤一二美

 かきざわ・ひふみ 1968年、東京都出身。家族カウンセリング研究所代表、家族相談士・カウンセラー。幼少期に両親の不仲に悩んだ体験から、子供の悩みに特化した家族カウンセリングとサポートを行う。2男2女の母。子育て経験と心理学のスキルを融合させた独自のノウハウを講演などで伝えている。日本家族心理学会会員。文学座プラチナクラス卒業。