M&Aで「負ののれん」を蓄える ライザップ「利益かさ上げ」の全カラクリ (3/3ページ)

「利益は意見、キャッシュは事実」

 会計の世界には「利益は意見、キャッシュは事実」という言葉がある。つまり利益は適用する会計基準によって金額が左右されてしまう。PLの推移だけ見ても、その会社の真の成長力は見えてこないのである。

 事実に目を向けるために、CFを確認してみよう。ライザップの営業活動から稼いだ資金を表す「営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)」の推移を見てみると、なんと毎年減少し続けている(図表7参照)。増加し続けていた営業利益とは正反対の推移だ。そして10%程度が安定した経営の目安とされる「キャッシュ・フロー・マージン(売上高に対する営業CFの割合)」を計算してみると、1%前後しかない。

 ライザップの主力ビジネスの「ボディメイク事業」は2~4カ月にわたるプログラムで、一括前払いが基本である。資金繰りは通常、有利に働くはずだ。それにもかかわらず、営業CFがここまで小さいということは、買収した企業の立て直しに、相当なキャッシュを使っていることが予想される。

経営基盤を“筋肉質”にするために

 ライザップはこのまま衰退していくのだろうか。将来のことなので確実なことは言えないが、筆者の見解としては、徐々に回復していくと予想する。なぜなら、決算説明会資料によると、主力の「ボディメイク事業」は売上高も会員数も順調に増加しているからだ。しかも、「RIZAP GOLF(ライザップゴルフ)」や「RIZAP ENGLISH(ライザップイングリッシュ)」も軌道に乗りはじめている。

 すでに認知度は高く、年間100億円ほど投じている広告宣伝費および販売促進費を削減しても、売上に与える影響は軽微だろう。これはコスト削減の余地が十分にあるということだ。さらに、この1月に代表権を返上したものの構造改革担当である元カルビー会長の松本晃氏は健在だ。手腕を発揮し、不採算子会社のテコ入れや整理が進めば、収益力が回復するだろう。

 唯一の懸念は、今回の赤字発表で会員離れが進んでしまうことだ。前述のとおり前払制度を取っている会社なので、会員としては事業の存続が心配になる。破綻した旅行会社の「てるみくらぶ」や英会話の「NOVA(ノバ)」も前払制度だった。同様の事態を連想し、多くの会員が返金を求めたり、新規会員獲得が極端に苦戦したりすることが起きれば、歯車は逆回転する。

 まずは事業の存続に問題がないことを現会員や潜在会員に周知し、実直に既存事業を成長させることで、筋肉質な会社に生まれ変わることが求められる。得意のレバレッジ経営の解禁は、財務基盤が十分に整ってからでも遅くはない。

 川口宏之(かわぐち・ひろゆき)

 公認会計士

 早稲田大学会計大学院非常勤講師。監査法人での会計監査、ベンチャー企業での取締役兼CFOなどを歴任。現在、多数の上場企業の社員研修や各種団体主催の公開セミナーなどで、「会計」をわかりやすく伝える人気講師として活躍中。著書に『決算書を読む技術』『決算書を使う技術』(共にかんき出版)などがある。

 (公認会計士 川口 宏之 写真=時事通信フォト)(PRESIDENT Online)