
日産自動車九州工場。今年2月、日産は次期エクストレイルの英生産を撤回し、九州工場に切り替えると発表した。(写真=時事通信フォト)【拡大】
これまで、わが国の多くの企業は、賃金水準の低さなどから海外に生産拠点を移した。各企業は生活必需品などの汎用品をメインに生産を行い、それを世界の市場で販売して収益を上げてきた。この取り組みは為替レートからの影響を抑制しつつ収益を確保するために重要だった。
同時に、アジア新興国などは、先進国企業の直接投資を受け入れることで資本を蓄積し、所得を上昇させてきた。一人当たりGDP(国内総生産、企業収益と給与の合計額)の推移を見ると、新興国の所得増加のマグニチュードは圧倒的だ。
なぜ中国経済が減速でも、レクサスの販売は好調だったか
2007年から2017年までの間、ベトナムでは一人当たりGDPが1.5倍増加した。タイやフィリピンでの増加率は70%前後に達した。中国では2.3倍程度も一人当たりGDPが増えた。それに伴い、中間層の厚みが増し、富裕層も増えた。この間、OECD加盟国の平均的な一人当たりGDPの伸び率は8%にとどまった。
所得上昇に支えられ、アジア新興国の人々はより良いモノを手に入れたいと思うようになった。景気が上向き給料が増えるに伴い、高額消費が増えるのは自然だ。その結果、わが国の化粧品や自動車など、高付加価値の商品への人気(需要)が高まった。
いい例がトヨタの“レクサス”だろう。2018年、中国の新車販売台数は前年割れだった。2017年末で小型車減税が終了したことが大きく響いた。その中で、トヨタの高級自動車ブランドである“レクサス”の販売台数は増加した。中国経済が減速する中でレクサスの販売が好調だったことは、わが国ブランドへの人気が高まっていることをよく示している。
「ユニットレイバーコスト」では日本とアジアの差はない
企業経営者の立場から考えた場合、新興国における所得の上昇は、生産にかかるコスト増加に他ならない。それは、海外で生産活動を行う意義が低下したことを意味する。
最も大きいのは、人件費の問題だ。いま“人手不足”は世界各国共通の課題だ。特に、潜在成長率が高いアジア新興国では労働需給がひっ迫している。すでに、生産1単位当たりの労働コストを示す“ユニットレイバーコスト”を基準にすると、わが国とアジア新興各国の賃金コストに大きな差はない。賃金の上昇圧力が高まる新興国で生産能力を増強する経済合理性は薄れている。