
日産自動車九州工場。今年2月、日産は次期エクストレイルの英生産を撤回し、九州工場に切り替えると発表した。(写真=時事通信フォト)【拡大】
新興国に比べ、わが国の賃金上昇圧力は弱い。それは、新興国での生産に比べ、ファクトリーオートメーション(FA)などの先端技術を導入して労働生産性の向上を目指す余地があることと言い換えられる。それは企業の収益確保に欠かせない。
その上で、わが国の価値観に基づいて品質管理を徹底し、海外で生産するよりもより良い品質を備えた製品(高付加価値製品)の生産を重視する企業が増えている。言語や文化の問題を考慮すると、この考えには相応の説得力がある。
また、工場の自動化などIT先端技術の導入によって、国内と海外の生産技術の格差も収斂してきた。その結果、海外で生産しても、国内で生産しても、コストが大きく変わらなくなってきたと考えられる。
国内回帰は「一過性」の変化ではない
わが国企業の海外戦略は、重要な局面を迎えたと考えるべきだ。
労働コスト、生産活動を支えるテクノロジーの両面で国内外の差は縮小している。従来のように海外で生活必需品などの汎用品を生産し、それを世界各国の市場で販売するビジネスモデルの優位性は低下したといってもよい。変化に対応するために、国内に生産拠点を設立し、より付加価値の高い商品を生産して、中国市場などでのシェアを高めようとする企業が増えている。
わが国企業の製造拠点が国内に回帰していることを“一過性”の変化として扱うことは適切ではないように思う。
英国から福岡県へ、日産自動車は新型SUVの生産拠点をシフトする。背景には、英国のEU離脱(ブレグジット)の先行きが読めないことがある。それに加え、日産には、国内で完成品を生産することの意義、優位性を再評価し、それを競争力につなげる考えもあるはずだ。それがなければ、日産は生産拠点を英国以外の海外に移していただろう。
日本企業が世界に情報発信するための条件
今後、求められることは、各企業が“Made in Japan”のブランド価値を高め、世界でシェアを得ることだ。汎用品の分野では、中国や韓国企業の追い上げが熾烈になっている。デジタル家電分野では、中国企業の競争力向上が著しい。ブランド力が問われる高付加価値分野で、ドイツの自動車やフランス、イタリアの高級ブランドなどに対抗していかなければならない。