雇い入れた企業とすると、せっかく来てもらった人材に辞めてもらっては困るので、「甘やかした」対応になる。スキルや成長意欲が不足していても厳しく指導はしない。転職者は、「自分は大事にされている、なぜなら自分には能力があるからだ」と勘違いしてしまう。
そういう人間が転職を繰り返すと、どうなるのか。経験や知識が十分ではないのに、それなりの処遇を要求する「プライドの高い」人材が出来上がる。社内での軋轢(あつれき)も生まれる。長年勤めてきた「スキルと経験を持った」従業員にとってみると、「スキルがなくプライドの高い人」をなぜ高い給与で雇用するのか、といった思いを抱く。会社に貢献してきた社員が失望して辞めていく構図になりかねない。
会社の発展段階では、人材を刷新することも必要になるだろう。事業が拡大すると、それまでとは異なるスキルや経験を持つ要員が必要になる。採用は人事戦略であり、経営戦略そのものだ。どういった人材を採用して処遇するかについては、全社員が注目して見ている。
転職を考える社員側も、将来どのようなキャリアを描くのか、を考える必要がある。「20代、30代の経験が重要」と説く先人は多い。スキルが身につく職場を用意しなかった企業側にも責任はあるだろう。だが、スキルがないまま転職を重ねた若者が、年を重ねたときにどうなるのだろうか。未来の責任は自分自身にある。
重要なのは「どのポジションにいるのか」ではなく、「何を成し遂げてきたのか」だ。過熱した労働市場に踊らされないようにキャリアプランを考えていただきたい。
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【プロフィル】小塚裕史
こづか・ひろし ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。