論風

中西経団連会長の復帰を喜ぶ 多様な個性で新時代の創生を (1/2ページ)

 リンパ腫で療養に入っていた中西宏明・経団連会長が順調に回復し、9日から職務に復帰された。現代医学の進歩を改めて実感するとともに中西さんのタフネスぶりに心から敬服である。9月は折しもがん征圧月間。日本人の2人に1人が生涯の中でがんを患う時代、このニュースは多くの人々に勇気を与えたと思う。(経営共創基盤CEO・冨山和彦)

 中西さんが日立製作所という日本を代表する伝統的大企業で遂行されてきた改革も、経団連会長として経済界全体に対し打ち出している改革も、共通するのは戦後の復興期から高度成長期にかけて未曽有の成功を遂げた、日本型経営モデル、企業モデル、さらにはそれに整合した日本人の「一社懸命」型のサラリーマン的生き方、働き方を、21世紀の新たな環境に適応すべく抜本的にアップデートしようとする点である。

 新卒一括採用と対になった就職協定の廃止や終身年功型の同質的で連続的な組織と対になった内部者中心の企業統治システムの改革は、当然ながら経済界内でも意見が分かれる。かつてジャパン・アズ・ナンバーワンとして日本企業が世界を席巻し勝ちまくっていた時代、そうした同質性、連続性は、改良型イノベーション力の源泉として大いに機能したのは事実で、その有効性が生き続ける産業や事業領域は今でも存在しているからである。

 第4次産業革命の洗礼

 しかし、1990年代以降、グローバル革命とデジタル革命による破壊的イノベーションの大波が襲いかかり、不連続で超速な激変が次々と起きる時代に入ると、多様性と流動性に欠ける組織のもろさが露呈する。その結果、コンピューター、半導体、通信機器、遂(つい)にはわが国のエレクトロニクス産業全体が大変な苦戦を強いられることになった。そして今日、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)の時代に至り、その大波は第4次産業革命といわれるほどの全産業的な広がりを見せつつある。これは、従来のような組織の同質性、連続性をてこにした漸進的改善・改良力だけでは勝てない事業領域がさらに広がっていくことを意味する。

 ここ30年、大苦戦の最前線に身を置いてきた中西さんだからこそ、果断な決断力と実行力で日立を改革し、経団連会長としては、わが国の企業のかたち、さらには職業人としての生き方、意識の在り方の抜本的改革を、多少の反発や混乱をいとわずに推し進めようとされているのだと思う。この課題意識は私も同様であり、ちょうど入院される直前に出版された、中西さん初のご著書「社長の条件」共著のお声がけを大変光栄に思い、喜んで協力した。

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