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「人を助けず、立ち去れ」が正解になる日本 「正しいこと」より「リスク回避」 (1/3ページ)

 5人を助けられるのなら、1人を犠牲にしてもいいのか。この思考実験「トロッコ問題」を取り上げた山口県の小中学校が謝罪に追い込まれた。その理由は保護者からの「授業で不安を感じている」という指摘だという。文筆家の御田寺圭氏は「ケチがつくことには挑戦してはならないという、現代社会を象徴している」と分析する--。

 たった数名の「授業に不安を感じている」で謝罪

 山口県岩国市立東小と東中で、「多数の犠牲を防ぐためには1人が死んでもいいのか」を問う思考実験「トロッコ問題」を資料にした授業があり、児童の保護者から「授業に不安を感じている」との指摘を受けて、両校の校長が授業内容を確認していなかったとして、児童・生徒の保護者に文書で謝罪した。

(中略)

 授業は、選択に困ったり、不安を感じたりした場合に、周りに助けを求めることの大切さを知ってもらうのが狙いで、トロッコ問題で回答は求めなかったという。しかし、児童の保護者が6月、「授業で不安を感じている」と東小と市教委に説明を求めた。両校で児童・生徒に緊急アンケートをしたところ、東小で数人の児童が不安を訴えた。

 (毎日新聞「死ぬのは5人か、1人か…授業で「トロッコ問題」岩国の小中学校が保護者に謝罪」2019年9月29日より引用)

 数百人を相手にした授業で、たった数名から「不安に感じている」といった訴えがあったことによって謝罪をする--まさに現代社会の教育現場を象徴する出来事のようだ。こんなことで謝罪をしなければならないのであれば、体育や音楽や算数など、他の授業で不安を覚えた生徒など山ほどいるはずだが、それらもすべて謝罪して回るのだろうか。

 「ある人を助けるなら、別の人を犠牲にしてもよいか」

 さておき、「トロッコ問題」とは倫理学における思考実験のひとつであり「ある人を助けるためであれば、別の人を犠牲にしてもよいのだろうか?」を問うものである。著名な政治哲学者であるマイケル・サンデルが「正義」についての考察において引用したことで、世界的に広く知られるようになった。簡単に解説しよう。

 線路を走っている一台のトロッコが制御不能に陥ってしまい、このまま進めば向かった先で作業をしている5人がトロッコにひき殺されてしまう。

 あなたは偶然にも、トロッコが走る線路の分岐切り替えレバーの近くにいる。レバーを倒してトロッコの線路を切り替えれば5人は助かるが、切り替えた先にも1人の作業員がいる。5人を助けるためなら1人を犠牲にしてもよいのだろうか。あるいはこのままにするべきなのだろうか。

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