ただ韓国人客の急増で、交通機関や宿泊・観光施設は「パンク状態」(同)に陥り、日本人客の受け入れにも支障が出た。観光地や住宅街などで韓国人旅行者の大声やマナーに苦情が出ることも増えた。
一方、韓国側から見れば、対馬は釜山から片道数千円で渡航できる「安・近・短」の外国旅行先との認識だ。対馬での韓国人客1人当たりの消費額は約2万2300円で、日本人客より大幅に少ないという。
地元観光業界では韓国人客急減を受け、団体客向け観光バスの台数を減らすなど対応に追われているが、従来の「パンク状態」は解消された。
市観光商工課の阿比留氏は、「韓国人客が昨年の41万人にまで戻ることは、たぶんない」と見通す一方、「韓国から消費支出の多い個人客が訪れ、美味しいものを食べたり、長く滞在したりすれば、人数が少なくても消費額は増える」と指摘。「対馬観光のこれからを考え、再生とイノベーション(革新)を目指したい」と将来を見据える。
韓国側に対馬応援団
対馬が韓国に背を向けることはない。
10月18日夜、日韓の観光事業者を中心に「対馬観光活性化のための懇談会」が市内で開かれ、韓国との交流強化が話し合われた。ある参加者は「国の思想を言い出せば、いつまでたっても日本と韓国の問題はよくならない。民間レベルで交流を続けていくことが重要。国が変わるのはその後でもいい」と訴えた。
同席した市観光交流商工部の二宮照幸部長は「市役所も(韓国人客誘致の)対策を打ちたいが、まだそういう時期ではないという声もあり、動きがとれない。民間の交流はとても心強い」と歓迎した。
翌19日夜には、日韓のアーティストらが出演する交流コンサートが市内で初開催された。韓国からは歌手や演奏家、ダンサーら出演者約20人を含む80人ほどが手弁当で訪れた。
主催したのは「デサモ(対馬を愛する集まり)韓国人会」。今年1月にSNS(交流サイト)で呼びかけて結成され、韓国の市民数百人が会員になったという。
主催者の1人で対馬在住の夫英順(ブ・ヨンスン)さんは、「No Japan運動はあるけれど、韓国の国民全員が賛成しているわけではない。今は日本への渡航をためらっていても、対馬を応援する人は多い」と話す。
「ずっと昔からお隣さん」
対馬市役所には「韓国と仲良くするな」と主張する電話が全国各地からかかってくるという。しかし、ある市幹部は「本土の人には分からないだろうけど、われわれはずっと昔からお隣さん。ご近所だから仲良くするのが当たり前ですよ」とサラリと言い切った。
隣国と交流の歴史を重ねてきた島民感情を礎(いしずえ)に、対馬は韓国との関係も再構築を図ろうとしている。