高論卓説

EC市場拡大、中小の戦術は 購入のストーリーづくりに知恵を

 大手アパレル企業が店舗を減らし、百貨店が閉店するというニュースが続いている。郊外や地方都市でのケースが多いようだ。人口が減少して景気後退が懸念されるなど複数の要因があるようだが、インターネットでモノを購入する取引量が増加していることも原因の一つだといわれている。

 経済産業省の調査によると、物販系分野において「EC(電子商取引)化率」が向上している。EC化率とは、全ての商取引金額(商取引市場規模)に対するEC市場規模の割合のことだ。だが、同報告書を基に計算してみると、ECだけではなく、EC以外での取引金額も増えているようだ。

 それにもかかわらず店舗別にみると採算の見通しが立たないということなのだろう。採算を確保できる大都市などに店舗を集中させるか、ECを活用するなどして、利益確保を狙わなければならない。

 一方、地域の百貨店を主要な販売チャネルにしてきた企業にとってみると、大きな打撃だ。新たに大都市などに出店しようとしても競争が激しい。自社でEC化を進めるにも体力がいる。アマゾンなどのネット通販を通じて販売量を増やした事例もあるものの、あまたある商品の中に埋もれてしまうことが懸念される。

 さらに企業を悩ませるのは、消費者の考え方や行動パターンが分からなくなることだ。店舗があれば、訪れる客を観察したり話を聞いたりすることで、消費者動向を理解し、商品や売り方に工夫を凝らすことができた。

 ネット上だと、どのような顧客が、どのような価値観や考え方で、どのような商品を、どのようなタイミングで購入するのかを観察することが難しい。

 もちろん、ECサイトの運営側は、消費者の動きを可視化して分析する仕組みを駆使している。利用者の年齢・性別・住所などの静的な情報を取得し、よく訪れているサイトや購買履歴などからユーザーの嗜好(しこう)性を分析し、商品やサービスのリコメンデーションを表示する。データ分析とプロモーションの試行錯誤を何度も繰り返すのだ。

 こういった作業には費用と労力がかかる。大手EC企業は多くのユーザーを抱えているので、たくさんの情報が集まる。大量のデータを分析して、売り上げを伸ばすための試行錯誤を繰り返す体力もある。だが、中小企業が同じ土俵で勝負するのは簡単ではない。

 この状況は消費者にとっても良いとはいえない。商品がリコメンドされてきても、必要としているモノとは限らない。さまざまなサイトの口コミをチェックすることになるのだが、そこでの評価が自分の価値基準と必ずしも一致しない。店舗の減少と、ネット上であふれかえる情報量とで、本当に欲しいモノを探し出すことが難しくなっているのだ。

 商品に対するこだわりが強い消費者ほど、きちんと調べたいと考える。機能、デザイン、使いやすさ、耐久性などを、見たり触ったりして確認する。そして購入することを正当化する「ストーリー」をつくる。店員の仕事の一つは、一緒にストーリーをつくり、迷ったときに背中を押すことだったはずだ。

 中小企業が生き残るためには、限られた店舗とネットを駆使しながら、ターゲットとする顧客とつながり、ストーリーづくりを手伝う方策に知恵を絞るしかない。自社商品を欲しいと思ってくれる顧客がどこにいて、どのように情報収集して購買の意思決定をしているかを把握し、それに合った戦術を立てなければならない。顧客もそれを待ち望んでいるのだ。

                  

【プロフィル】小塚裕史

 こづか・ひろし ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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