高論卓説

台湾総統選を左右する“亡国感” 対立の軸は「台湾の外にある中国」

 中国への接近、香港の二の舞い危惧

 来年1月11日に運命の総統選投票を迎える台湾で話題になっているのが「亡国感」という言葉である。

 発音が似ているドライマンゴーの「芒果乾」と書かれることもある。経済的にも発展し、民主政治が定着した台湾でどうして「亡国」なのだろうか。

 きっかけは連日、激しい警察とデモ隊の衝突が起きている香港情勢だ。中国に接近しすぎたら、台湾も香港のようになってしまう。台湾社会でそんな不安が広がっているのだ。警察隊に鎮圧される人々の姿から台湾の人々は「亡国」を思い浮かべるらしい。そして、与党の民進党が亡国感をあおっていると国民党は批判している。確かに、国民党が政権を取れば、台湾を中国に明け渡してしまう、と批判する人たちは、民進党サイドにいる。

 一方、民進党の蔡英文総統は「亡国感を最初にあおってきたのは国民党だ」とやり返した。それが指しているのは2008年までの民進党政権時代のことだ。

 当時、陳水扁総統は台湾の独立をあおるような言動を繰り返したため、台湾は中国だけではなく、米国からも「トラブルメーカー」と認定された。「民進党に任せたら台湾は駄目になってしまう」という宣伝を国民党は行い、圧倒的な得票で08年に馬英九政権が誕生した。自民党が「民主党政権の悪夢を繰り返してはいけない」と選挙で述べているのと似ていなくもない。

 こうした亡国感をめぐる議論を見ていると、台湾の中ではなく、台湾の外にある中国について、どう考えるかが対立軸になり、人々の心は揺れてしまうことが分かる。

 亡国感が話題になる一方で、今回、台湾の総統選自体は、いま一つ盛り上がっていない。現状では、現職の民進党・蔡英文氏が、国民党の公認候補、韓國瑜氏を寄せ付けない形で大きくリードしているからだ。

 台湾のテレビ局TVBSの最新世論調査によれば、蔡英文氏は韓國瑜氏を9ポイントリードしている。先月の調査からやや差は縮まったが、まだ蔡英文氏の安定リードだと言えるだろう。他の調査でも似たりよったり。しかも、国民党と支持層が重なる親民党のベテラン政治家、宋楚瑜氏が13日に総統選への出馬を表明した。韓國瑜氏は票が食われてしまうだろう。

 今週、香港中文大学が半ば「戦場」になった香港情勢の解決も程遠い。この中で韓國瑜氏が投票日までに差を詰めることは容易ではなく、「勝負あった」の声すらある。

 仮に、蔡英文氏が再選したとき、私だったら、どんなニュースの見出しをつけるか想像してみた。「民進党蔡英文氏が台湾総統再選、香港情勢が追い風に」ぐらいしか思い浮かばない。昨年11月の統一地方選で大敗を喫し、支持率が低迷していた蔡英文氏の何が良かったからここまでV字回復したのか、台湾の内在的要因からはちょっと書きにくい。いいことか悪いことかは別にして、香港問題の最大の受益者は蔡英文氏かもしれない。

 今の争点は同日に行われる立法院選挙である。民進党が昨年よりはだいぶ盛り返したとはいえ、政党支持率では国民党と拮抗(きっこう)している。民進党、国民党両方が過半数割れして、小政党との連立模索の事態もあり得る。民進党が少数与党になれば、蔡英文氏2期目の4年はかなり政権運営がやりにくくなる。残り50日余りとなった台湾選挙。「亡国感」というカードを手にした民進党が総統選で逃げ切り、立法院でも過半数を守るかどうかを見極めたい。

                   

【プロフィル】野嶋剛

 のじま・つよし ジャーナリスト。大東文化大学特任教授。朝日新聞で中華圏・アジア報道に長年従事し、シンガポール支局長、台北支局長、中文網編集長などを務め、2016年からフリーに。『ふたつの故宮博物院』『銀輪の巨人 GIANT』『台湾とは何か』『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』など著書多数。

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