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スタバが貫く「ロマンス予算」 店舗数最多でもダサくならないチェーン経営 (2/2ページ)

 すべてのお店のデザインが異なる

 「イタリアのエスプレッソカフェのような体験をアメリカに根付かせたい」と語っていたのは、スタバの実質的な創業者であるハワード・シュルツです。しかし、このときコンサルタントの間で議論になったのは、「それが根付くと時間がゆっくり過ぎることに顧客が慣れ、居心地の良さを感じるようになるのではないのか?」ということ。これは当時の私たちにとって逆転の発想でした。

 この現象は後に、「サードプレイス」という言葉で表現されるようになります。つまり、自分の家や職場(ないしは学校)がそれぞれ1つめ、2つめの居場所だとしたら、スタバは3つめの居場所を提供しているという考え方です。ホームとアウェーでいえば、スタバはホームであるため、注文に多少時間がかかっても許せてしまうという特別な地位が与えられているのです。

 しかし、これだけ数が増えてもスタバがまったく飽きられないのはなぜでしょうか。私が注目しているもう1つの点は、店舗デザインの秀逸さです。スタバの店舗には、他のチェーン店、たとえばドトールやマクドナルドとはまったく違う特徴があります。それはすべてのお店のデザインが異なることです。

 「ロマンス予算」を設けた異色のチェーン経営

 よくスタバを利用する人なら、頭の中に店舗のイメージを浮かべることができるでしょう。コンセプトはすべて同じでも、面白いことに設計の細部が店舗によって違うのです。これは本来、チェーン店の経営としては非効率的な手法です。しかし、スタバはそれをあえてやっているところに特徴があります。

 スタバの店舗デザインは、外注せず社内のデザイン部隊が担当しているそうです。そして店舗の開発予算の中には、なんと「ロマンス予算」と呼ばれる予算が存在し、それぞれの店舗の「デザインの遊び」にお金をかけているのだといいます。

 経営戦略の常識でいえばこれは、数百店舗を超えるような大手チェーンで取り入れるべきやり方ではありません。教科書通りなら、デザインや什器、設備などを同じにし、低予算でブランドイメージを統一する方法を採ります。一つひとつの店舗がすべて異なるデザインで、なおかつ、居心地が良くて長居できるお店作りというのは、チェーン経営としてあまりにも異色です。

 スタバはなぜ、そのような方法を取り入れたのでしょうか。実は飲食チェーンとは別の業態で、同じような手法で成功しているサードプレイスがあります。それは一流ホテルのエグゼクティブラウンジです。スタバがどこまでこの業態を意識したかはわかりませんが、サードプレイスとしてはスタバよりもはるかに長い歴史を持っています。

 一流ホテルの宿泊は「エグゼクティブフロア一択」であるワケ

 私が40代を迎えたばかりの頃の話です。日本を代表する大企業の社長と一緒に出張した際に、「鈴木くん、一流ホテルに泊まるのであれば、必ずエグゼクティブフロアに泊まりなさい」というアドバイスを受けたことがあります。

 以前に勤務していた会社では、一流ホテルの安めの部屋をブッキングするという出張規程がありました。ファームのブランドがあるのでそれなりの有名なホテルに宿泊するべきだが、ぜいたくは許さないという考え方です。そのため実は、40歳になって独立するまで私はこのような世界があることを知りませんでした。

 「もう少しお金をたくさん払ってワンランク上のエグゼクティブフロアに泊まる」と何が起きるかというと、そうすることでホテルがサードプレイスになるのです。

 一般的にホテルの部屋というものはそれなりに機能的にできていて、仕事から戻ると小さなデスクにパソコンをのせ、Wi‐Fiでネットにつないで仕事をすることができます。でも、なんとなく心からはくつろげない。だから合間合間で外出し、外の空気を吸いたくなります。出張中のサラリーマンの多くが夜の繁華街に繰り出すのはそのためでしょう。

 ところが、一流ホテルのエグゼクティブフロアの宿泊客は、エグゼクティブラウンジを利用できるようになります。このラウンジは自宅のようにくつろげる空間で、落ち着いた照明の中、ソファに座ってパソコンに向かうことができ、無料のコーヒーやクッキーも用意されています。おまけにハッピーアワーになればアルコールを楽しむことができるのです。

 スタバ現象の背景に「最上級のおもてなし」

 そうやってエグゼクティブフロアに泊まり、エグゼクティブラウンジに出入りするようになると、ホテルにいる時間が長くなってきます。あまりに居心地がいいので、わざわざ繁華街に出かけるのがおっくうになってしまうほどです。

 そして一流ホテルチェーンのエグゼクティブラウンジの設計は、国内においても海外においても、同じコンセプトでありながらすべて異なります。全部違うのに、どこも同じように居心地がいい。これはまさしくスタバと共通する特徴です。

 そうした共通点から、客がスタバに飽きない現象の源流は、どうやら一流ホテルの最上級のおもてなしにあるのではないかと気づかされました。自宅のようにくつろげる場所は、世界中にいくつあっても飽きはこないものです。

 スタバはそのコンセプトを崩さずに数を増やしていきました。その結果、客にとっての上質なサードプレイスが増え、いつでもどこでもそこに長居する現象が起きているわけです。店舗数がこれだけ増えても私たちがスタバに飽きない、外食産業の常識に反する不思議な現象の理由はここにあるのです。(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ) 経営コンサルタント。1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『仕事消滅AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』など。

 ----------(PRESIDENT Online)

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