凸版印刷 アルミレスで常温・長期保存を可能に
環境保全や温暖化対策の重要性が言われて久しい。最近では、海洋プラスチックが国際的な問題となっている。今回の「これは優れモノ」は、環境問題に貢献する紙製飲料容器を取材した。
製品ではなく作品を作る
「社名に印刷とありますが、祖業はパッケージ事業なのです」と話すのは、凸版印刷生活・産業事業本部パッケージソリューション事業部の宝居(ほうきょ)要介さん(44)。
同社は、1880年代に大蔵省印刷局で働いていた木村延吉(えんきち)と降矢銀次郎らによって設立された。2人は、近代的紙幣の製造に用いられた「エルヘート凸版法」など当時の最新印刷技術を学んだ技術者で、当初は有価証券などの高級印刷を中心とした事業展開を目指していた。
ところが、折からの不況で高級印刷はほとんど需要がなく、会社設立は一時頓挫した。ビジネスの機会を探っていると、熾烈(しれつ)な販売競争をしていたたばこ会社のパッケージのデザインから印刷・製造を手掛けることに成功。1900年に現在本社のある東京都台東区台東1丁目に創業することができた。社名は、「エルヘート凸版法」から取ったもので、会社設立の趣意書の中には、「印刷術は美術なり」という一言が盛り込まれた。
この精神は現在も受け継がれ、製品ではなく作品を作るという心意気が会社の理念として、脈々と流れているという。
「どんなパッケージが消費者の心をつかむのかを常にウオッチしています」
宝居さんは、食品や生活用品メーカーなどと商品の開発段階から共同でパッケージ作りに関わっている。
紙パック同様のリサイクル
近年では、機能性や生活者の利便性だけではなく、環境負荷の削減を図る「パッケージの最適化」が世界的な潮流となっている。そのため、紙パックに入った飲料なども広く流通している。
しかし、紙パックの内側には、中身の保存期間などを延ばすために薄いアルミ箔(はく)が貼ってあることも多い。紙パックを古紙として活用するためには、アルミ箔を分離する必要があり、リサイクルの課題ともなっている。
86年に凸版印刷が開発・発売した透明バリアーフィルム「GL FILM」は、世界最高水準のバリア機能を持つ透明バリアーフィルムで、吸湿・乾燥・腐敗などの変化から内容物を保護する「優れモノ」。アルミ箔の代わりに紙容器に使用することで、紙パックと同様のリサイクルが可能だ。
このフィルムを使って、飲料の常温流通・長期保存を実現したのが紙製の小型飲料容器「カートカン」だ。ドイツで生まれた製品だが、日本国内の品質基準に合わせるために改良を行い、「アルミレス」「長期保存」「常温流通」を実現した。原料となる紙には間伐材を含む国産材が30%以上使用されている。健全な森林を育てるためは、「植える」「育てる」「収穫する」サイクルを回していくことが必要であり、日本の森林保護と二酸化炭素(CO2)削減に一役買っている。
「当社が1996年から日本で初めて導入した商品ですが、近年の環境意識の高まりで多くの引き合いをいただいております」と宝居さんは力強く語った。