高論卓説

異端を排除する“黒い羊効果” 同調心理は集団の利得下げるだけ

 ダイバーシティー経営に取り組む企業が増えているが、均質な組織の中に異質な存在が入ってくると難しい問題が生じることがある。日本社会では、集団の中で浮いてしまうと仕事がやりにくくなったり、いじめの標的になったりすることさえあるからだ。

 集団の凝集性がゆがんで高まったとき表れる「黒い羊効果」について、Aさん(女性・30代)の事例をもとに考えてみよう。黒い羊効果とは、白い羊の集団に1頭だけ黒い羊が入ってきたとき、集団が黒い羊を仲間とみなさず、のけ者扱いにして自分たちを守ろうとすることである。

 Aさんは半年ほど前にヘッドハンティングされて、営業企画室の室長に就任した。その部署は、事務職を除く10人ほどのメンバー全員がAさんより10歳以上も年上で、実権は室長ではなく、副室長であるBさん(男性・50代)が握っていた。営業企画室は、もともとAさんをヘッドハンティングした役員の直属部署で、これまで役員が名目的に室長を兼務していたが、新たな試みとして外部から室長を迎えたという経緯がある。

 Aさんは、自分や自分のチームが1日も早く会社の売り上げに貢献できるよう熱心に勉強した。Bさんにも積極的にアドバイスを求め、風通しの良いチームづくりを目指したが、やがて自分が空回りしているような違和感を覚え始めたという。部署のメンバーは、指示を仰ぐ際には相変わらずBさんのところへ行き、Aさんへは事後報告ということさえよくあった。Bさんは、大手取引先の情報や担当者など、営業の要となる部分を引き継いでくれない。情報などを共有させてほしいとBさんには何回か伝えたが、あれこれ理由をつけては、のらりくらりとかわされていたそうである。

 そんな日々がしばらく続いたあと、Aさんにとって決定的な出来事が起こる。役員不在の会議で、会社から進めるよう言われていた新企画に皆で取り組もうと熱弁を振るうと、Bさんが「新参者が、今までのやり方にケチをつけるつもりなのか」と言い出し、他のメンバーたちも同調したのである。以後、メンバーのAさんに対する態度がガラリと厳しくなり、Bさんの実質的な権力を盾にAさんを堂々といじめるようになった。とうとう重要な会議に呼ばれない、部署の情報が伝達されないなど、業務にも支障が出てきたそうである。

 一方で、彼女以外のメンバーはBさんを中心に、かえって結束が強くなった。集団の中に黒い羊がいることで、白い羊たちの一体感が強まり、仲間意識が高まったという状況である。黒い羊に対する攻撃は、白い羊にとって「道徳的行動」にもなる。Aさんの新企画を通さず、今までのやり方を守ることが善であり、そのためのAさんへの攻撃も善となる。このような攻撃行動が、脳に快感を生じさせることもあるといわれている。

 それまでの居心地の良かった秩序や雰囲気を守ろうとして、集団のボスが異質な存在に制裁を加え、それにメンバーが同調することは往々にして集団の利得を下げる。職場などに黒い羊が来たとき、集団にゆがんだ同調心理が生まれないようにしなければならない。

【プロフィル】舟木彩乃

 ふなき・あやの ストレス・マネジメント研究者。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院ヒューマン・ケア科学専攻(博士課程)に在籍中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。

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