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東日本大震災の被災地・岩手から「影裏」が挑む 地方発の映画製作は根付くか (2/3ページ)

波溝康三

 岩手からの挑戦

 映画「影裏」は同社設立後、第1作となる記念作でもある。

 会社員の今野(綾野剛)は埼玉から盛岡の支店へ転勤し、同い年の同僚、日浅(松田龍平)と出会い、次第に打ち解けていく。内向的で人づきあいが下手だった今野は、日浅と親しくなるうちに、岩手県の地酒や渓流釣りの魅力などを彼から教えてもらい、徐々に心を開き始めるが…。

 大友監督は、テレビ岩手の会議室を借り、岩手での映画製作の体制を固める準備を進めていく。「ただのご当地映画にはしない。しかし、岩手でしか撮れない映画を撮る」。この確かな信念に、地元メーカーや金融、通信、不動産関係など約40社の地元企業が支援に名乗りを挙げる。ロケ場所の提供などの他、渓流釣りのシーンでは地元漁業組合の人たちが協力し、映画撮影のための釣りのポイントを探してくれたり、映画で主演の二人が酌み交わす珍しい地酒をテレビの局員が見つけてきてくれるなど、企業の他、個人の手弁当による好意で協力してくれたという。

 メーンの舞台として登場する盛岡は、多くの文化人を輩出した文化の街として知られ、大友監督の母校、県立盛岡第一高校からは石川啄木や宮沢賢治ら文豪が生まれている。そんな歴史ある文化の風土から、現在も書店が多く、県内にある40以上の書店が、小説「影裏」と映画「影裏」を広く県民に知ってもらおうと、一致団結し、PR活動に力を入れる。盛岡市内の書店では原作者を招き、映画公開記念のイベントを開くなど、公開前から盛り上げてきた。

 新たな映画製作スタイルの模索

 映画「影裏」は2月14日、全国で封切られた。

 今年7月と8月には、大友監督がメガホンを執った、ワーナー製作による大作映画「るろうに剣心」最終章の二部作の公開が控えている。

 地元企業などのバックアップがあるといいながらも、「影裏」の製作費は、「るろうに剣心」規模の大作映画の10分の1以下だと大友監督は明かす。

 それでも、「東京で製作するのではなく、岩手で撮ることに意義があった」と強調する。

 「いきなり、大作を地元の力だけで撮るのは無理ですから」と大友監督は言い、こう続けた。

 「3年前に公開された映画『3月のライオン』の一部のシーンは、実は盛岡市で撮影しています。今回、『影裏』は全編、岩手県内で撮っていますが、このときの経験が生かされているんです。将来、岩手で撮る大作映画の可能性ですか? 『3月のライオン』から、『影裏』という流れへ。段階的にですが、着々と進んでいるといっていいでしょう」と次につなげていく自信を見せた。

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