テクノロジー

新型コロナの蔓延防止へ 計算機ができることは何か (1/2ページ)

 【理研が語る/科学の中身】

 神戸に来て何回目の桜になるだろうか、生田川沿いにも例年のようにきれいな花が咲き、散っていった。ただ今年は、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)によってただならぬ緊張感が走る春となった。今冬は雪が少なく、スキー場が悲鳴をあげているというニュースも、もう随分と前の話のような気がしてしまうくらい、この2月後半くらいからの動きは目まぐるしい。

 筆者の所属チームは主にライフサイエンスを研究する生命機能科学研究センターにあって計算機の開発を主軸の一つとする、かなり異色のチームである。

 その計算機は、たとえば原子分子が見えるくらいの細かさで水中のタンパク質がゆらゆら揺らぐ様子を模擬するパラパラ漫画を、「京」などの超並列汎用(はんよう)スーパーコンピューターよりも「速く」生み出すことに特化したマニアックなマシンである。

 実は汎用スパコンで実現できる計算速度には限界があって、タンパク質の面白い動きを単純に追いかけるには物足りないのだ。そこで速くするために特化した計算機能と通信機能などを一緒に詰め込んだ集積回路(LSI)を、ゼロから設計してマシンを仕立ててしまえ、という力技というかマッチョな思想に基づくのが、この計算機の開発なのである。

 しかしLSIの設計からマシンを完成させるのは、かなり際どい綱渡りである。事実、先代機は本来の機能を果たすこと無く開発が終了した。この失敗を糧に、ほぼ全面改修版に仕切り直すことになって筆者も開発に加わる。

 今作も失敗に終わったらもう次のチャンスはないだろう、チーム消滅はともかく、日本における“マッチョ路線”の芽を完全につんでしまうことになるのは実に惜しい。

 実際の開発は、まあなかなかに泥臭い作業の連続である。LSI設計の締め切りが見えてきて、開発も佳境に入ると、みんなの目も血走ってくる。バグを見つけては修正に追われる日々。一歩引いてドタバタを楽しむくらいがちょうどいい。

 何にしても1人じゃ太刀打ちできないのだから、問題を見つけたらチームの誰かに頼ってチーム全体の効率を上げていく。すったもんだの末に出来上がったLSIは、特注の分厚い基板にその他諸々の部品ともども、大分県の会社で職人さんが実装してくれる。

 ただ実装基板の動作確認にはわれわれが現地に乗り込む必要がある。結局、大分には何度も通うことになったが、おかげで別府の湯けむり風情、早朝から100円で入れる公衆浴場、豊かな海産物などに巡り合えた。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus