高論卓説

リブラ進展・デジタル人民元はテストへ 新型コロナの裏で始まった通貨戦争 (2/2ページ)

 中国は2014年に中央銀行デジタル通貨(CBDC)の可能性を研究するためのタスクフォースを発足させて、17年には中国人民銀行が中国4大銀行およびその他有力金融機関にシステム設計への協力を求めていたほど、もともとCBDCに積極的だった。

 ところが昨年のリブラ構想発表以来、リブラによる通貨覇権の可能性に一番鋭く反応したのが中国だった。なにしろリブラの通貨バスケットには人民元が入っていなかったのだ。そのためにCBDCの開発は加速されたと考えられている。

 米国はCBDCのドルに関心が薄く、リブラを政官民そろってたたいたようなところがあった。しかし昨年11月にハーバード大で行われた「北朝鮮がデジタル人民元を介して某国から核燃料を購入してミサイルを発射」というようなシミュレーション会議を通じて現在のドル決済システム「SWIFT」の脆弱(ぜいじゃく)性を認識すると、デジタル通貨問題が引き起こす国家安全保障上の問題点にも注意が向けられるようになった。

 リブラが提供する27億人をカバーするプラットフォームは、米国が発行するかもしれないデジタル・ドルに対しても有用なツールとなるであろう。新型コロナの影響を受ける貿易構造の変化や国際関係、その出口はまだまだ見えないが、裏では通貨をめぐる静かな戦いが始まっている。

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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