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テラヘルツ光照射による細胞内タンパク質重合体の断片化 (1/2ページ)

 テラヘルツ光照射による細胞内タンパク質重合体の断片化

 □理化学研究所 光量子工学研究センター テラヘルツイメージング研究チーム 基礎科学特別研究員・山崎祥他

 電波と光の両方の特性を持ち、周波数が1兆ヘルツ付近の電磁波を「テラヘルツ(THz)光」という。THz光は近年、物質の内部構造を観測する検査技術や次世代の無線通信帯域として、その応用が期待されている。この社会的背景から、THz光の曝露(ばくろ)による生体組織への影響が注目されているが、THz光は水に強く吸収されるため、生体組織のような水を含む物質では0.01ミリメートル程度しか透過できない。そのため、主に皮膚や目など生体表面の組織を研究対象としており、生体深部の組織についての研究は進んでいなかった。

 今回、理研を中心とした東北大学、量子科学技術研究開発機構、大阪大学、京都大学の共同研究グループは、自由電子レーザーによって発生させたTHzパルス光を、水溶液中の培養細胞に向けて照射したところ、細胞内に存在するタンパク質重合体(アクチン繊維)が切断され、断片化することを発見した。この断片化は、THz光が到達できない水深数ミリメートルで観察したことから、THz光がタンパク質重合体に直接作用したのではなく、水表面で吸収された光エネルギーが「衝撃波」として水溶液中を伝搬し、細胞内のタンパク質重合体構造の変化を誘起したと考えられる。

 本研究成果は、THzパルス光が生体内部の細胞や組織に作用する可能性を示しており、今後の安全指針策定や、THz光を用いた新しい細胞操作技術の創出につながると期待できる。

 ■プロフィル

 やまざき・しょうた 東北大学大学院農学研究科博士後期課程修了、博士(農学)。東北大学大学院農学研究科ポスドク、理化学研究所特別研究員を経て、2018年4月から現職。

 ■コメント=細胞内の高分子構造を操作することで、細胞機能を制御する新しい光技術を創成したい。

 質量分析インフォマティクスで生命の脂質多様性を解明

 □理化学研究所生命医科学研究センター メタボローム研究チーム研究員・津川裕司

 生体内には多くの種類の脂質分子種が存在し、その多様性がさまざまな生命現象や機能制御に関わっていると考えられている。近年、質量分析法を用いて脂質構造の多様性を捉えようとする研究が盛んに行われている。しかし、質量分析ビッグデータは複雑かつ膨大であり、またMS/MSスペクトルから脂質構造を包括的に解明するのは困難なことから、その全貌はほとんど明らかになっていなかった。

 今回、理研を中心とする共同研究グループは、ヒトおよびマウスの臓器・組織・細胞、腸内細菌叢などの脂質成分を網羅的に捉えるため、最先端の質量分析によるノンターゲット分析を行った。ノンターゲット分析とは、質量分析に導入された全代謝物を一斉に解析する手法である。得られた質量分析ビッグデータを解析するための情報処理技術(質量分析インフォマティクス)を開発した結果、既存の研究に比べおよそ10倍に上る約8000種の脂質分子構造の存在が明らかになり、脂質構造の多様性を捉えることに成功した。

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