リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

ぜんち共済・榎本重秋社長(2-1)人本・健康経営で100年企業目標 (1/2ページ)

 知的障害者向け保険 地道に実績

 生活者から「こんな保険をつくってほしい」という要望に応えながら成長してきた少額短期保険業界にあって、「らしさ」を追求してきたのが知的障害者向け保険を専門に扱うぜんち共済だ。2006年11月の設立以来、ぶれることなく地道に保険の必要性を訴求する姿勢が受け入れられ、他社の追随を許さないビジネスモデルを築き上げた。榎本重秋社長は「社員を大切にする人本経営・健康経営の実践と顧客本位の業務運営を徹底し、100年企業を目指す」と先を見据える。

 家族らの声を反映

 --19年度は最高益を計上した

 「知的障害、発達障害、ダウン症、てんかんがある人に特化した日本で唯一の専門保険会社として、ぶれることなく、コツコツと業績を積み上げてきた。その結果として19年度は10年連続の黒字と過去最高の最終利益(3300万円)を計上できた。保有契約者は約4万8000件、収入保険料は約10億6000万円だった。第2創業期・発展期と位置づけた17年度までの前5カ年計画で掲げた収入保険料10億円は達成したが、契約数5万件には届かなかった」

 --受け入れられた理由は

 「知的障害者特有のリスクとニーズを考慮し、『安心した生活』をもたらすことができる商品設計を心がけてきたからだ。全国を飛び回って障害のある子供を持つ家族の気持ちを教わった。このため提供している商品は、障害者の家族や学校の先生ら多くの声が反映されている」

 --例えば

 「08年発売の主力商品『ぜんちのあんしん保険』は死亡保障、医療保障のほか、物を壊したときの個人賠償責任補償、トラブルに巻き込まれたときの権利擁護費用補償という知的障害者のために必要と思われるものをすべて備えた。中でも入院保障を手厚くした。入院すると病院から個室に入ってほしいといわれ差額ベッド代が発生する。完全看護の病院でも付き添いが求められることもあるので、家族の仕事に支障をきたし家計の収入を圧迫しかねない。このため入院保険金は1日目から支払うことにした」

 「弁護士費用の補償を付けたのは、知的障害者はトラブルに巻き込まれても、うまく口頭で伝えられず誤解されやすいからだ。知的障害に理解のある弁護士を紹介したり、費用をサポートしたりする。また知的障害者には保険の契約を本人ができるかどうかという契約上の問題がある。生命保険に加入するには本人の告知が義務付けられているが、病気を話すことができずに入れないことも少なくない。われわれの商品は告知も医師の診断も必要なく入れる」

 東京海上日動と提携

 --知的障害者にとって必要な保険ということで、商品内容は進化しているのか

 「18年1月、ぜんちのあんしん保険の商品改定を行った。少額短期保険の個人賠償責任補償の支払限度額は最高1000万円と決められているが、自転車事故などで加害者側に高額賠償を命じる判決が相次ぎ、障害を持つ子供の家族から対応を求められるようになった。また障害者が起こした事故が相手に理解されにくく、示談交渉が家族や施設職員の負担になっていた。こうした要望に応えるため東京海上日動火災保険と提携、5億円の補償と示談交渉サービスが付くようになった」

 「これにより、われわれの問題が解決され、契約者の支持を得た。東京海上日動が障害者マーケットに興味を持って、われわれの提案に手を挙げてくれたことに感謝している。08年2月に少額短期保険事業者として登録されたとき、取材で『将来は保険会社が障害者のために保険を引き受けてくれる社会になってほしい』と訴えていたことが実現したからだ。障害者向け保険で実績を積むなどの活動が評価され、まずは東京海上日動が動いてくれた」

 --東京海上日動との提携関係も進化しているのか

 「知的障害者とその家族も入れるがん保険『手をつなぐがん保険』を共同で開発し、20年1月に発売した。知的障害者が安心して暮らせる社会の実現に一緒になって取り組む中、『全国手をつなぐ育成会連合会』が会員に対し実施したアンケートで約7割が『知的障害があってもがん保険に入りたい』と答えた。こうした要望を受けて商品化した」

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