新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本酒の消費が減少し、各地の酒蔵が日本酒やその原料となる酒造好適米(酒米)の在庫を抱えている。全国に先駆けて感染が広がった北海道では、4月の道産酒の出荷量が前年比で6割も減少。来年の酒米の生産に影響が出る恐れも生じている。(寺田理恵)
道外客がいなくなった
「ここ数年、インバウンド(訪日外国人客)需要で単価の高い日本酒が好調だったが、販売不振で原料米が余っており、契約したコメが毎月積み上がっている」
酒米の生産が近年、拡大している北海道。道と酒造組合、農協が集まった7月21日の懇談会の席上、苦境を訴える声が酒蔵から相次いだ。
契約栽培で生産される酒米は、酒蔵の購入計画に基づいて契約農家が栽培する。今秋収穫される酒米は、10月以降の新酒の仕込みに向けて契約済みだ。
しかし、外出自粛で日本酒が飲食店で飲まれる機会が減った上、観光客の減少で土産物としての需要も落ち込んでいる。日本酒の製造量を縮小した酒蔵もあり、酒米が余剰在庫となりそうだという。
「余った米を来年の仕込みに持ち越すことになれば、農家との来年の契約で(購入を減らして)迷惑をかける恐れがある」と酒米の生産計画への影響を懸念する酒蔵も。卸会社からは「道民は価格に厳しい。(高くても)おいしい酒を飲みたいという道外からの客がいなくなった」との指摘もあった。
酒米拡大から一転
日本酒の出荷量がほぼ半世紀にわたり減少する中、単価の高い純米酒や純米吟醸酒は増加が続いている。
北海道では平成12~26年に道産酒米「吟風(ぎんぷう)」「彗星(すいせい)」「きたしずく」が相次いで誕生。その評価の高まりを受け、道内の酒蔵が原料米を道産へ切り替える動きも進んだ。3品種の作付面積は、25年の258ヘクタールから30年の404ヘクタールへ広がった。
道内の酒蔵数は29年に「上川大雪酒造・緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」が新設されるなど13を数え、年内には新たに2つの酒蔵が創設される。酒どころとして注目されはじめ、行政機関や関係団体がさらなる生産拡大に向けて取り組んでいた。
その矢先に、全国に先駆けて北海道が2~3月に新型コロナ感染拡大の第1波に見舞われ、日本酒をめぐる状況は暗転した。4~5月の第2波では国の緊急事態宣言に伴い、外出や飲食店での夜間の酒類提供を控えるよう求められ、ほかの都府県に比べ日本酒の消費低迷が長く続いている。