肌を極薄膜で覆い一晩中潤いで満たす
政府は、新型コロナウイルスの感染症対策として不要不急の外出自粛やテレワークなどを推奨している。今回の「これは優れモノ」は、自宅でエステティックサロンのようなスキンケアが手軽にできる新しい美容アイテムを取材した。
「生理用品やおむつなどの衛生用品開発で培った技術が美容という全く別の分野で生かされました」と話すのは、「エスト バイオミメシス」の商品開発を担当する三井大輔さん(32)だ。大学・大学院ではナノテクノロジーを専攻していた。
生理用ナプキン、紙おむつなどの原材料として欠かせないのが、不織布。文字通り織っていない布のことで、繊維をランダムに結合させて布状にしたもの。さまざまな素材と組み合わせることも容易で、多様な製品に用いられている。
不織布開発から発展
花王では、1970年代にこの不織布の開発研究をスタートし、数々のヒット商品を誕生させた。1978年に発売した生理用ナプキン「ロリエ」は、肌触りの良さと優れた吸収力で多くの女性の支持を受けた。その後も紙おむつの「メリーズ」、掃除道具の代名詞となった「クイックルワイパー」、店頭に並ぶやすぐに品切れとなった「毛穴すっきりパック」など、高品質の不織布で美や健康分野へとその領域を広げていった。
同社の不織布製品に携わる基盤技術の研究員たちは、不織布の繊維1本1本を極限まで細くする課題に取り組んでいた。
2007年から電気の力を使い、極細の糸を紡ぎ出す、エレクトロスピニング法の研究を開始した。「この研究を進めるなかで生まれたのが、髪の毛の100分の1の細さの極細繊維(ファインファイバー)です」(三井さん)。通常の繊維の太さが10~30マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)に対して、ファインファイバーは、1マイクロメートル以下を実現した。極細になることで、通常繊維の1億倍の柔らかさと、液体を吸い込む毛管力が100倍となった。
研究陣は、このエレクトロスピニング法で作った極細繊維の膜が、皮膚の構造に似ていることに気が付き、製品化にあたっては、シート状にして肌に貼ることをイメージした。
しかし、シート状にするにはあまりに薄く柔らかいため、うまくいかなかった。「この技術をどのように応用できるか試行錯誤を繰り返していたのです」と話を引き取るのは花王のプレステージ化粧品ブランド「est(エスト)」を担当する新開龍一郎さん(29)。
繊維吹き付け“第2の皮膚”
さまざま検討を重ねる中で、ある研究スタッフが極細繊維を直接肌に吹き付け、第2の皮膚のような皮膜をつくるというアイデアを提案した。吹き付けた極薄膜は、肌になじんではがれにくく、皮膚の動きにも追従するという特性がある。しかも、高い毛管力は保湿液を皮膚の隅々まで広げて、そのまま保持するという特長を持っている。
これを製品化したのが、2019年に発表した「エスト バイオミメシスヴェール」。専用ディフューザーを使い、5分ほどで顔全体を第2の皮膚のような極薄膜で覆うことができるという“優れモノ”だ。
「第2の皮膚で一晩中、肌の湿潤環境を整えることで乾燥から守り、肌を潤いで満たすという画期的な商品です」と新開さんは胸を張った。
≪interview 担当者に聞く≫
花王ソフィーナ事業部 「est」マーケティング担当・新開龍一郎氏に聞く
最高級ブランドで新たな顧客獲得に成功
--既存のスキンケアのあり方を変える商品だ
これまでは、肌を美しく保つためにどんな化粧品を肌に塗るかに注力して開発をしてきた。今回の商品は、美容液と極薄膜で覆うことで肌の乾燥を防ぎ、肌の力を引き出すということだ。イメージとしては、ビニールハウスで環境を整えて、作物がより育ちやすい環境を作るといった感じだ。これまでのフェイスパックとはまったく違い、夜の化粧水や乳液などのお手入れを行った最後に、同シリーズの美容液を顔全体に塗り、この極薄膜を吹き付けて覆うことで、就寝中も長時間にわたり乾燥から肌を守り、肌を潤いで満たすことができる。
--開発で苦労した点などは